Two is the beginning of the end 第34話~第66話
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【第66話 やるき先生しょん 2004.4.30(金)】
アパシーなジャッキーの心の支えはやっぱり『パンの百科』の君なのであって、どっかの教室とかで見掛けるとウキウキしてしまうわけで。だがそれ以上ではないわけで。本当の心の支えであるあの娘のことなんてこんなところでは書けないのであって。もし書いてしまったら私はジャッキーに殺されてしまう。できるだけ遠回しに。できるだけ思わせぶりに…。
黒夢cali≠gariCASCADE。
イエモンオザケンコーネリアス。
パーフリヒスブルユニコーン。
サッズ奥井亜紀
ミッシェルポルナレフ
AIR
鬼束ちひろ『infection』
電気ピチカート町田康
ゆずソフィア民生
岡林hide
グレチキ
デートまであと3日。指折り数えてシャラランラン。
僕は感情的にならないようにしよう。そしてこのことを前提として「あえて」感情的になってみるのもやめよう。激するのをやめよう。理不尽なことがあっても笑っていよう。
だめだめだ。
ジャッキーはカレーを作って学校に持っていった。ドイツ語の授業に出席した。フレッシュな一年生を装ってフレッシュな一年生の集団に混じる。タメ口で話される心地よさ。二日前にフジテレビを見せてもらいに(ジャッキーの家はフジテレビが映らないのだ)友人の家へ行き、そこで帽子を買った。
ドイツ語の授業が終わるとジャッキーはカレーを食べた。おいしかった。
昼休みは女の子と話をしたり英語のテキストを眺めたりして過ごした。
それから英語の授業が二つあった。違う教室で女の子に出会った。『パンの百科』読んだ?うん。どう?なかなか面白い。まじで。ただパンの歴史が書いてあるだけなんだけどね。ああ、パンがどこで生まれたかとか。そうそう。どこ?エジプト。そうなんだ。
夕方、ジャッキーはデビリイかつデモニッシュなミイさんと食事をした。そばを食べた。おいしかった。お話をした。お話を。
授業に出た。眠たかったけれどもジャッキーは決して眠らない。あの手この手で自らに覚醒を促す。
バイト。
帰宅。
ジャッキーの知らないところでジャッキーは呼び捨てにされていた。ジャッキーの通っていた高校の演劇部に入るらしき三年生の男の子はこれ見てたらすぐにメールしなさい。
【第65話 貸すけど 2004.4.29(木)】
立川談志が言ってたことをまたもや引き合いに出しますよ。「僕はね、いとし・こいしが出てればもう何をしててもいいんです。これをファンって言うんです」例えばジャッキーなどは小沢健二が好きなわけだが、曰く、「僕はね、オザケンファンなんですよ。だからべつにオザケンが人を殺しても誰かをレイプしても金で少女を買ってもオザケンが好きですよ。それでいいじゃないですか。もしも幻滅したとかだったらファンであることをやめる。ファンであるうちは人を殺しても誰かをレイプしても金で少女を買っても曲出さなくても僕はオザケンが好きです。これをファンっていうんでしょう?作品が良きゃあ、なんでもいいんだよ」
【第64話 sha/zai 2004.4.29(木)】
第63話に非常に不適切な表現があったので訂正し、謝罪します。ごめんなさい。訂正個所は諸事情により極秘です。
【第63話 感情的青 2004.4.29(木)】
「あのーひーふたりでーえがいたちずはかぜにとばされてーゆくあてもーにげみちもーどこにもーみえなくなあたね、あおーくーそまあたーむねーをーひやすかぜのにおいも、ゆっくりとやーさしくてーあたらしいこころが、うまれ、たわ、どんなゆめをみてるの、わーらあてるーのないてるのー、あたしもすこしはつよーくー、なあーたーかしーらー、はながさいたらーむかえにきてね、おなじきもちで、ここにいるからそっとーひとみとーじーればー、わらあてるきみがーいるー、せみがないたらーうみにいこうね、しずむゆうひにーあかくそまあてちょっとーくらいのーわがーままーはー、おおめにみてね」
ジャッキーはHysteric Blueに俄かにはまっているシングルを何枚か持っているアルバムも三枚買ったベストも入手した友人にhysblu好きがいるのでその影響というのが大きいのだが直接のきっかけはジャッキーが名古屋から上京するときにとある女の子から『ベイサイドベイビー』という曲を紹介されたことであるその曲は曰く遠距離恋愛を歌っているのだそうだが歌詞だけを見るとそうだとばかりは言い切れないしかしとにかくそのような雰囲気を持つ曲だというのは確かであるそれで気になってそのシングルを購入するとなかなか良いではないかということでアルバムを数枚聴いていたらこれはどうかいちいち心に来るメロディーが幾つもあるではないか悪くないどうも気に入ってしまった。
そういえばジャッキーはしばらく前にゆずにはまったこれも友人の影響であるラルクアンシエルやルナシーのCDもたくさん持っているこれらも友人の影響であるそうかと思えばその逆もあってジャッキーに触発されて奥田民生やイエローモンキーや奥井亜紀や岡林信康やフリッパーズ・ギターを聴き始める輩も多勢おらるるのだそしてその友人らで集まってカラオケなどということになるとこれはもう輸入合戦ということになるだんだんと全員のレパートリーが一致してくる
こうして人間というのは社会の中で均質化していくのだ。お互いに重なり合った世界を少しでも広げていこうとして相手の持っている要素を少しずつ吸収していこうとする。すると似たような趣味を持った人間たちが生まれてくる。趣味が合うとなるとより親密になる。より親密になると結びつきが強まって閉鎖的排他的性質を帯びてくる。
「自分を疑いなさい。多角的に見なさい。そんなちゃちな物差しじゃ、絶対にサバ読んじゃうもん」
【第62話 ジャキ乱れよ乙女たち 2004.4.28(水)】
浅羽通明氏が羽振り良く新刊を十冊ばかしプレゼントするぞというので心ある受講生が二十名ばかりそれを所望した。ジャッキーもその中の一人だった。タダで書物が手にはいるのであれば十勝花子の著作でも厭わず欲す、彼の座右の銘は「なんだそれくえるのか」「もらえるもんならオラもらうぞ」である。
「人数が多いようなのであみだくじで決めます。一人ずつ名前を言ってってください」「丸丸です」「はい次」「罰罰です」「はい次」「資格資格です」「はい次」「参画参画です」「はい次」「あ、ぼくジャッキーです」「は?」「ジャッキーです」「え?」「ジャッキーです」「ああ、チェン?」「チュン」周りの見知らぬ男子らが失笑する。いったいジャッキーのこの目立ちたがり精神はなんなのであろう!「彼はきっと本名を言いたくないだけなんですよ」本当にそれだけであろうか。「大丈夫、僕が言うんだから。たぶんね」学校にいてフレキシブルな振る舞いを振りまいている“ジャッキー”は、もはや“本名”にアイデンティファイすることができなくなっているというのだろうか…。
教卓の上に『ナショナリズム』と『アナーキズム』という二種類の書物
――ともに浅羽の新刊
――が五冊ずつ積まれている。あみだくじで勝った受講生から順々に好みのほうを持ち去っていく。『アナーキズム』がやっと一冊持ち去られたかというころ、『ナショナリズム』は完売した。五倍の人気ということだ。
ジャッキーの隣に座っていた不思議少女気取りのガールは抽選に勝って、『アナーキズム』を手にした。というのも、『ナショナリズム』はすでに品切れていたのだ。ジャッキーは彼女からその書物を拝借してパラパラとやってみると、「かわぐちかいじ」とか「キャプテン・ハーロック」などといったテクニカル・タームがずらり。二冊に共通して銘打たれたサブタイトルは『名著でたどる日本思想入門』であるが、松本零士が出てくるとはジャッキーも思わなんだ。
「しかし思うんだけどね、ここで『ナショナリズム』を選択するか『アナーキズム』を選択するかによって人間は二種類に分けられると思うよ。前者は浅羽の授業に出席するべきじゃないな。要するにこの教室には空気の読めない受講者が大勢いらっしゃるってこと」ジャッキーは物書きとしての浅羽をさまで評価はしていないがそのアナーキーさにはたまにしびれることがある。ジャッキーがかような穿った発言をすると“可愛いけどまともじゃない”女の子である彼女は笑って答えた。「そうね」
授業が始まるときにジャッキーが彼女の隣に座ったのは偶然ではない。興味があったのだ。はたして彼女が、“不思議少女気取り”なのかはたまた“生粋の不思議少女”なのか。前者ならばそれも良いだろう後者ならば掘り出し物だろう。そのとき彼女の机上に置かれていた文庫本のタイトルは『パンの百科』である。読んでいたのは『超短編アンソロジー』。「短い話って楽しいよね」と語りかけると「うん。なんかもう長いのは疲れる」と人生全てにありったけの倦怠感を捧げる感じで答える。
ジャッキーは不思議少女気取りには気を付けようと思っている。本物の不思議少女というのをまだ体験したことがないので探し回っている。鬼が出るか?蛇が出るか?ここでその答えが見つけられたらと思う。
【第61話 秘蜜と密を絡ませて 2004.4.27(火)】
天気が良かったのでジャッキーは煙草を吸いに行こうと散歩を思い立った。練馬区を出発し、南下して杉並区に入った。セブン・スターズの煙を注意深く吐き出しながら歩く。何故だか、通行人のジャッキーを見る目が冷たい。なんだ失敬なとわざと大股で歩みを続けるジャッキー。そのまま品川区を経由して千代田区に入る。皇居を前にして信号に阻まれて立ち止まり、13本目のセブン・スターズに火を付けた瞬間、目の前に覆面の男が現れた。「手を上げろ」なんと覆面の男はどこから手に入れたのかニュー・ナンブを構え銃口をジャッキーに向けている。
恐怖の余り、ジャッキーは数秒動けず、男にもう一度「手を上げるんだ」と激されて初めてハッと両の手を天に上げた。口から煙草がはらりと落ちる。あんぐりと口を開けて間抜け面のジャッキーに覆面の男は叱咤する。「落とすな!」ジャッキーはビクッとして硬直した。男がどうしてそんなことを言うのかわからなかった。そもそもジャッキーには自分が銃口を向けられている理由がわからない。見開いた瞼の中で瞳だけしばたかせている。
「拾え」男は言う。ジャッキーは命ぜられるがままに煙草を拾った。火は消えていなかった。「くわえろ」まるでレイプもののAVのようなせりふだななどと思いながらもジャッキーは言われた通りに煙草をくわえる。「吸え」ジャッキーは煙草を吸う。「よし。歩け」ジャッキーはおそるおそる歩きだした。するとすぐに警官がやってきた。良かった!天の助け!しかし、取り押さえられたのはジャッキーのほうだった。「きさまァ。何を考えている」とまず叱られる。ジャッキーは何が何だかわからない。「千代田区は条例で歩き煙草が禁止されているんだ。罰金として2000円出しなさい」そういうことか。ジャッキーは未だ差し向けられている銃口に怯えつつ財布から2000円を出して警官に渡す。「うむ。これからは気を付けなさい」言い終わるや否や警官は全力で走り去り、ジャッキーに声をかけさせるいとまも与えなかった。なんなんだ!と考える間もなくニュー・ナンブがジャッキーの頭を小突く。「おい、煙草を吸え」ジャッキーは仕方がないからその通りにした。煙草をくわえて歩き出すと警官が来た。「2000円出しなさい」ジャッキーは払った。警官は受け取るとすぐに走り去る。今度はジャッキーも「ちょっとおまわりさん!」と叫んでみたが、無駄だった。警官が消えるとまた男が言う。「おい、煙草を吸え」「もう無いんです」「無かったら買ってこい」「はい」ジャッキーはマルボロライトを買って吸った。するとまた警官が来た。2000円を払った。これを数回繰り返すと、ジャッキーの財布から紙幣がなくなった。「お金がないんです」ジャッキーは警官に釈明する。「そういうわけにはいかない!おろしてきなさい」ジャッキーは郵便局へ行った。覆面の男はATMコーナーまで銃口を突き付けたままついてきた。ジャッキーはお金を50000円おろした。そして例のサイクルを25度繰り返す。警官が消えると、覆面の男は言った。「うん。まあ、このくらいでいいだろう」と呟き走って逃げていった。
ジャッキーはすぐに近くの交番に駆け込んで事情を説明した。すると巡査は涼しい顔をして、「まあ仕方ないよ。日本には数十兆の借金があるわけだからね」と言う。ジャッキーは諦めて家路についた。煙草のない帰り道は退屈だった。なぜだかずっと未納にしている国民年金を思い出した。
【
第60話 「今何時?」「人時」 2004.4.26(月)】
陶酔気味な彼女の述懐に秘められた繊細な心情の機微がジャッキーの琴線に触れた。脳裏を掠める諧謔の言葉。でも言わない。畏敬の念と顧慮の態度だけを誇示しているのが極意だ。ジャッキーには自負があった。羨望や故意の迎合はあとから厄介になる。偏見や執着心を見せてはいけない。妄想や狼狽はもってのほか。折角の尽力も徒労に終わり寂寥感が残る。そしてすっかり忘却してしまえ、打てないボールは敬遠しよう。煩瑣な痛痒や憐憫に腐心するのは錯誤…「うええええええん」突然の慟哭に戦慄し精神は萎縮する。衝撃的なシーンに愕然となる。瞠目を禁じ得ず悲しげな表情がジャッキーを呪縛する。事の全貌が見えない。荒涼とした世界に膨大な過剰さが林立し跋扈している。彼女の標榜は端的かつ顕著ではあったけれども自明でなく究極的な本質はその兆候すらも覗かせていない。幾らの本性も露呈せず判然としない。如実にして子細なる証拠は頻繁には現出しない。ジャッキーは喧騒と紛糾の中で朦朧とし脳内は混沌としている。葛藤が頭蓋内を攪拌する。あの日あの時の記憶は無碍に埋没され何を観ても髣髴とさせられることはない。身体に浸透したいつものやり方をただ踏襲しただけでは完璧ではないのだ。彼女とジャッキーとの愛の枯渇した歪曲的な関係は拮抗を保ち硬直状態である。常軌を逸脱した熾烈さは、二人を誤謬に溢れた矛盾の奈落へと引きずり込む。喪失を経ずして這い上がるのは至難の業だ。畢竟、所詮破綻なるものは元来卒然として唯一の中核に襲いかかるというものでもないのだから、日々渉猟して人生を模索していけば良いのだ。全てを凝視し、摂取し、反芻し把握をすることだ。さすればかの奈落から脱却し更に邁進できる。培った能力を発揮し脳力を駆使し飛翔するのだ。人生の王道を闊歩せよ!
「んーまだ34ページかよ…」
墨守 抑制 指弾 遮断 貫徹 醸成
(参考文献:『意味別マスター 完全征服24 頻出現代文重要語700』)
自らを抑制し不当な指弾を遮断せよ、生の中で醸成された思想を貫徹し墨守せよ。
「意味がわからない」
「どうしたの。ジャッキー」
「誰だ」
「ジェニファーよ」
「ああ君か」
「そうあたしジェニファーよ」
「ジェニファー」
「なにかしら」
「いい名前だね」
「よく言われるわ」
「ジェニファー」
「ジャッキー」
合体。
「ねえジャッキー。はあはあ」
「なんだいジェニファー。はあはあ」
「何かあったの。はあはあ」
「何でもないさ。はあはあ」
「うそ」
「実は悩みがあるのさ」
「なあに」
「僕はどうしてこんなにも強いんだろう!」
「強い?」
「強すぎるんだよ」
「どういうふうに?」
「難しそうな単語を繋ぎ合わせていれば賢い人みたいに見えるだろう?でもそれじゃちぐはぐなんだ」
「意味不明ね。本当は弱いんだって言いたいわけ?そういうメタファ?」
「違うよ。強がるってことには強さが必要なんだ。そして今僕は強がることができている。だから強いんだ」
「へえ。」
「強い奴は、弱くないんだ」
「当たり前じゃない」
「その当たり前のことが僕にはわからなかった」
「バカなのね」
「うん。とてもバカなんだ。自覚してる。だけど誰にも助けを求められない。だって僕は強いんだ!弱くない。昔はそうじゃなかった。昔の僕は弱かったんだ。だからすぐに他人に助けを求めることができた。なんて楽勝だったんだろうあの頃はと思う!人生って楽勝なんだよ、弱い奴にとっては。弱い奴っていうのはまるで流れるプールのように人生をするするとまるで流しそうめんのようにスライディングして前へ進んでいけるんだ。ところがこの強い僕はどうだろう!強がりを覚えてしまった僕は!」
「それは強がりじゃないわよ。強いのよ。あなたは。さっき自分でも言ったじゃない」
「そう。たとえば僕は昔暗い人間だった。だけどいじめられるのを回避するために、学校の中だけでは明るい人間になった。学校では明るく、家庭では暗く。そんな日々が何年か続いた。だけど今ではどうだろう?ハイドがジキルと入れ替わったみたいに、暗かった僕は明るい僕によって消滅させられてしまった!家庭でも大声で軽口を飛ばし誰も聴いてないのに下手くそなウタなんかも歌ってしまったりしているじゃないか。今度だって、まるでハイドがジキルと入れ替わったみたいに、弱かった僕は強くなった僕に淘汰されていくんだ。そしてそれが当たり前みたいになっていって、僕は誰にも頼れない、自律的な、ティピカルな大人になってしまうんだろう」
「いいことじゃない」
「そう。悪い事なんてないんだ。でも、強い事って、本当は辛いよ」
「どうして」
「だって」
「まだ子どもなのよ。身体がついていっていないだけ」
「毛は生えてる」
「抜けはじめてからが本当の大人よ」
「意味がわからない」
「バカだからよ」
「弱くなりたい。弱くなりたい。弱くなりたい。弱くなりたい。カワイイ女の子に毎日抱かれたい。カワイイ女の子を毎日抱きたい。カワイイ女の子と毎日電話したい。カワイイ女の子と毎日電話したい。カワイイ女の子を毎日眺めて暮らしたい。女子高生に中出ししたい。弱くなりたい。弱くなりたい。弱くなりたい。こんなことを大声で叫んで、みんなに呆れられながらもぎりぎり見捨てられはしないくらいのポジションで、一生落ち込んで暮らしたい。弱いままでいたい。すぐに助けを求めたい。好きな女の子にヘルプを呼びかけたい。だって本当は人生に希望なんて無いんだ。絶望しかない。だけど僕は余りにも強すぎるから、大声で叫んだりできないんだ。なんとなく生きてんだ。だから本当は死にたいんだ。死んだ方がいいんだ。だけど僕は強いし、余りにも賢すぎるから、それができないから、ああ」
「支離滅裂だわ。時間の無駄ね。早く第二ラウンドを始めましょう」
「君は賢い。君の人生はセックスなんだもの」
「早く」
「わかったよ。あああああああああああああああああああああ」
「ちょっと早過ぎよv」
【第59話 人時との一時 2004.4.25(日)】
一言多い奴はしねばいいのに。空気読まない奴はしねばいいのに。
「死ぬ」という言葉に抵抗がある人ごめんなさい。僕も人一倍抵抗あると思います。だけど私は書きたかった。だけども私は書きたかった。
『マカロニほうれん荘』は読むくせに『猿の惑星』は今まで観たことがなかった異常なコーネリアスファン、ジャッキー。小山田圭吾は藤子不二雄が大好きなんです。ジャッキーも藤子不二雄が大好きなんです。ジャッキーは『猿の惑星』を観て思った。「ああ、藤子不二雄の世界だ」と。そうか、なるほど。
ああ。左様なら。
唇に秘密と蜜を絡ませて
【第58話 清春の岐阜弁 2004.4.25(日)】
昔僕のことが大好きで今はもう僕に興味のない女の子はみんな。
僕の人生の参考資料なんだ。そして僕も彼女らの人生の参考資料なんだ。
だからみんなしねばいいんだ。
【第57話 女子高生に中出ししたい 2004.4.25(日)】
先日、とあるHPが閉鎖した。“K”という、主に「女子高生に中出ししたい」「無能な人間は全員死ね」をテーマにしたHPだった。ジャッキーがこのHPを閲覧し始めたのはちょうど一年ほど前に遡るが、もしもここ一年のジャッキーの文章が以前に比べて少しでもソフトになったとするならば、それはこの“K”というHPのおかげだったかもしれない。“K”が訴え続けていたことはジャッキーが、いや誰もが無意識のうちに抱いている魂の叫びだった。「女子高生に中出ししたい」「無能な人間は全員死ね」。それが“K”の主旨だった、そして、誰もが心に“K”を持っている。ある程度の高学校歴を有する男子なら誰もが「女子高生に中出ししたい」「無能な人間は全員死ね」という気持ちを抱いているものなのだ。“K”を閲覧することでジャッキーや他の閲覧者は自らの持つ無意識の欲望を満たしていたのだ。「女子高生に中出ししたい」「無能な人間は全員死ね」「偏差値50に満たない大学は職業訓練校に変えよ」「指導力のない教員は即刻クビにして強制肉体労働させよ」「バカは死ね」「クズは死ね」「そして一番ダメなのはこの俺自身なんだ!」誰もがこう思っている。“K”の管理人がトクベツなわけではない。しかし誰もがこのようなことを心のどこかで考えていながらも、口に出すことはない。そして鬱憤はたまっていく。だから“K”を閲覧してその欲望を間接的に満たし鬱憤を晴らすのだ。凡サラリーマンが『サラリーマン金太郎』を読んでスカッとした気分になるのと同じ原理だ。いじめられっ子の虚弱児が格闘技にはまるのと同じなのである。閲覧者は“K”を見て「なんてクダラナイことを書くんだ。ここの管理人はきちがいだ」などと感じながらも、また“K”に足を運ぶ。するとそこにあるのは、毎日のように繰り返されるお決まりのフレーズ「女子高生に中出ししたい」そう、実は誰もが女子高生に中出ししたいと思っているのだ。だからどんなにくだらなくても、管理人が気違いであるのがどんなに明白でも、一度閲覧した者は必ずそこへ再び帰らざるを得ないのである。
ジャッキーも“K”において憂さ晴らしをしていた。その間、彼自身のHPは平和だった。しかし“K”が閉鎖されてしまった今、ジャッキーが鬱憤を晴らす場所は再びこの場所に戻りつつある。第54話~第56話あたりを読めばその傾向は顕著にあらわれているといえるだろう。「女子高生に中出ししたい」「無能な人間は全員死ね」という叫びが聞こえてこないだろうか…。このままではジャッキーのHPは再び荒廃し、性と暴力の蔓延る『バイオレンス・ジャッキー』の世界へと向かっていくだろう!
【第56話 ヘルスのジョーと呼んでくれ 2004.4.24(土)】
僕の仔猫ちゃんにまとわりつく奴はみんな死ねー。
私はこんなにお酒を飲みました自慢する奴は死ねー。
私はこんなに彼女とラブラブです自慢する奴は死ねー。
僕にないものを持っていて
かつ僕が尊敬できない人物は全員死ねー。
自覚のない奴は死ねー。
顔の悪い奴は死ねー。
頭の悪い奴は死ねー。
僕にないものを持っていて
かつ僕が尊敬できない人物は全員死ねー。
くそが。
【第55話 ジャイ谷ジョーの“ダイアモンドじゃ口説けない” 2004.4.24(土)】
クセになったか?
このサル!
くそが。
サルがいっぺんオナニーを覚えると死ぬんじゃないかってくらいやり続けるんだってね。
大学生になって初めてキスやセックスを覚えたサル学生。獣か?貴様ら。
くそが。
あんまり気持ちがいいもんだから大公開オナニーですか。
俺はサルですって豪語したいんか?
くそが。
サルはサルらしくしてろ。
人間づらすんな。
くそが。
そんなに見せたきゃ街宣だ。
拡声器で叫べ。
鳥肌を見習え。くそが。
鳥になれ。自らを俯瞰で眺められるように。
それができるまでは喋るな。黙ってろ。それか死ね。
くそが。
【第54話 ジャからう事 ジャからう事 ジャからう事 ジャからう事 JOY! 2004.4.24(土)】
『タクシードライバー』という映画が非常に面白かったのでタクシードライバーになろうと決心したジャッキー。常日頃から「教員免許は更新制に!人員・給与を倍に!部活動は廃止せよ!」なんて先生や友人の受け売りで叫び回っていたジャッキー。教育に対しての文句は、そしてそれと同じくらい不安も、次から次から溢れ出してくるのに対して、タクシードライバーという職に対しては何の文句も不安も出てこない。それはジャッキーがタクシードライバーをよく知らないからであろうか。いや違う。天職なのだタクシードライバーはジャッキーにとって。
「稲穂も揺れる 恋揺れる
あいつはタクシードライバー
発車オーライ バックオーライ」
鼻を歌わせながら運転するジャッキー。路傍で「ハイル、ヒンケル!」と手を挙げる者がいる。ジャッキーは停車してその客を迎え入れる。「お客さん、どちらへ」「もちろん六本木」「へい」タクシーは進む。「私はね、人を殺して来たんですよ」客は言う。ジャッキーはドキッとした。「いやね、妻なんですけど。毎日私が会社へ行っている間に水道屋と何やらしだらのない営みをしとるようでね。殺してしまった」「は。そ。そうですか」「嘘ですよ」「ああ良かった」「そんなわけないじゃないですか」「そうですよねえ」「ああ」「まもなく六本木ですけどどこで降ります」「素通りしてくれ」「え」「そのまま成田へ」「え」「金は払う」「はあ」「人なんか殺してないから。高飛びなんてしないから」「そうですよねえ」「ああ」タクシーは無言で進む。「まもなく成田です」「ありがとう」「ここでいいですかね」「ああ」「50000円です」「ん」「おありがとうござい」「いや、人なんて殺してないからね」客は再びそう言って、タクシーを降りた。後部座席に新品の包丁をおいて。
【第53話 セックスシンバル 2004.4.23(金)】
ただいま。“僕”はここに帰ってきた。
韓国の会社員は上司に「様(ニム)」をつけるらしい。「部長様」「課長様」などと。日本ではそういうことはない。「部長」「課長」などと呼ぶ。このようにある国では普通のことも違う国では異常とみなされてしまうことも珍しくない。要するに「将軍様」という呼び方に違和感を覚え「あの国は異常だ」なんて言っている日本人は自分らの価値観のみに凝り固まりすぎている。「ヨン様」って呼び方に対して「何か変だなあ」と思ってしまうのはあなたが日本人だからかもしれないのだ。
僕は「将軍様」という呼び方に対して「何か変だ」と感じることを「正常だ」とするマスコミュニケーションのデマゴギーを無批判に受容してしまっていた。なんて自分勝手な僕だろう。こんなことだから他人をいたわったりねぎらったりすることもできないんだ。客観化するということはとても大切だ。相対化は大事だ。でもそれだけじゃ面白くない。
涙って本当は枯れない。
愛だったらいいのに。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※当サイトの名称は《Entertainment Zone》です。リンクフリーなのでHPをお持ちの方は死にたくなければ必ずリンクしておいてください。
※IEでの推奨フォントサイズは中か大です(適当)。
敏いとうとハッピーとブルー
敏いとうとハッピー&ブルー
敏い&う&ハッピー&ブルー
さよなら、僕のヒーロー。またいつか!↓
ジャゲイン2/ジャンタズマ2/ジャゲンスト凪平
意味なんて何もない
(imcompleteness cannot mean a thing)
なんて僕が飛ばしすぎたジョークさ
【第52話 あの紙ヒコーキタモリ空わって 2004.4.22(木)】
たったひとつの命を捨てて
生まれ変わった不死身の身体
鉄の悪魔をたたいて砕く
キャシャーンがやらねば誰がやる!
【第51話 僕らの夢は絶対無敵! 2004.4.22(木)】
「ない。ない。ないわ」
「どうしたの?」
「直径5ミリメートルのキスをどっかで無くしてしまって」
「意味がワカリマセン」
「ごめんなさい」
「鬱陶しい」
「キライ?」
「鬱陶しい」
「もう終わりかな」
「サヨナラだ」
「待って」
「猶予?」
「うん」
「サヨナラ猶予?」
「うん」
「鬱陶しさにサヨナラ猶予?」
「それはちょっと」
「なに?」
「語呂だけでしょ」
「うん」
「そういうとこやだ」
「キライ?」
「鬱陶しい」
【第50話 皇帝ジャルーサを倒せ! 2004.4.21(水)】
問題:次の翻訳された文章【壱】【弐】をもとの言語に戻し、まとめて一つの章とせよ。さらにその説明を対話形式で補い、最後に結論せよ。
【壱】よくある液状洗剤のCM。たった一滴垂らしただけで、赤茶色の汚水に透明な波紋が広がる。たった一滴の液状洗剤。それが必要なんだ。
【弐】全てを突然に終わらせてしまうことへの憧れって、だいたい誰もが持っていて、死ねるだけの勇気と引き替えに失ってしまう。誰も手にすることのない、鮮やかな勇気。
解答例:
たとえばこの男、“ジャッキー・イン・ザ・パーク”は、【壱】日記のネタが思いつかなくて困っている。書けない。しかし一つでも何か“タネ”のような素敵がひらめきさえすれば、あとは簡単、促成栽培。膨らませるだけだ。そうも思っている。でも、ひらめきは待つべきものではない、ということを知っているために、どうしても書けないし、ひらめかない。【弐】だから、もう全て終わりにしよう、日記なんて書くのをやめてしまおう、なんて思っている。リ・セット。死ねない人は、死ねない人なりに、死ぬためになんらかの工夫をするんだ。自殺のために。
「このプロセス。何かに似ていない」
「プロセス…なんのこと」
「陳腐なサケビを暗喩化するのさ」
「それが何に似ているの」
「君の詩に」
「わたしの詩」
「そう。君は本当は叫びたいんだ。愛しているって。抱かれたいって」
「何が言いたいの」
「君の詩は翻訳なんだよ。創作じゃない」
「よくわからない」
「あるいは。みみっちい肌着にフリルをつけて売り出しているようなもの」
「詩が気に入らないならそう言えばいいのに」
「そういうわけじゃないんだけど」
「じゃあどういうわけ」
「なんでもない」
「ねえ」
「なんだい」
「あなたも翻訳が好きなのね」
「どうして」
「みみっちい肌着にフリルをつけてる」
「何が言いたい」
「陳腐な悪口を暗喩化して」
「そうかもしれない」
「そうでしかないのよ」
「けど詩じゃないだけましだ」
「詩だからいけないの」
「芸術だからよくないのさ」
「一見すれば創作だから」
「それで君はうっとりとする。キライなんだ、あんな恍惚」
「わたしは恋をしていて。その歌を詠む。そのココロを詠むのよ。どうしていけないの。それは芸術ではないのかしら。それは創作ではないの」
「わからない」
「適当に言ったんでしょう」
「いつものこと」
「ほんとうにそう。いつもそうなのよね」
「ああ」
「死ねばいいのに」
疑問を持てば、答えを探す。袋小路に辿り着く。出口のない迷路を彷徨う。堂々巡りをする。いつだって同じことの繰り返し、無意味のオンパレード。何をしても何にもならない。こうしていることに意味なんてなくて。発展なんかなくて。そのうえ、発展に意味なんてなくて。最後には死ぬしかなくなる。けど死ねないともなると、恥ずかしい話、何かを破壊する他にない。破壊に意味がないなんてことに気付くべきではない。
そして悟りを開き、全てに意味があることを理解し、過去の自分を全否定する。これで自殺の完了。無意味だ。
【第49話 カリガリ博士 2004.4.20(火)】
「こんな事、何処で覚えた?」ってもっと、もっと言ってよ!
ちょっとくらい背伸びして、ひどく輝きたいんだ―――。
拍手の中で踊りましょう。
衆人環視のレイトショウ。
優れたハレンチ、土足で学び、
宜しくどうぞ、始めましょう。
エロトピア。
僕達、ピンクの排泄物。
エロトピア。
僕達、ピンクの排泄物。
エロトピア。
僕達、ピンクの排泄物。
エロトピア。
僕達、ピンクの
「排泄物。」
エ、ロ、ト、ピ、ア。
「何が欲しいか言ってみな?」ってもっと、もっと言ってよ!
硬い革張りの夜に、濡れたリズムを刻んだら―――。
目隠しもして踊りましょう。
品性下劣なレイトショウ。
薄暗い旅は程好く加熱。
それではどうぞ、続けましょう。
あー。
エロトピア。
僕達、国家の猥褻物。
エロトピア。
僕達、国家の猥褻物。
エロトピア。
僕達、国家の猥褻物。
エロトピア。
僕達、国家の
「猥褻物。」
エ、ロ、ト、ピ、ア。
聞いた事もない言葉で、もっと僕をいぢめてよ。
大好きな日常を薔薇色で汚しましょう。
見た事もない世界で、もっと僕をいかせてよ。
むさぼれば肉の蜜、泳ぎましょう白い海。
聞いた事もない言葉で、もっと僕をいぢめてよ―――。
見た事もない世界で、もっと僕をいかせてよ―――。
【第48話 TENKAを取ろう!~信長の野望~ 2004.4.19(月)】
彼女は「ジャッキー」のマグ・カップを集めていた。家中がそれらであふれている。人生なんてそんなもんだ。と彼女は思う。初めて彼女が「ジャッキー」のマグ・カップを手にしたとき、それはあまいあまい蜜のような水で満たされていて、とてもよくかおった。彼女は透明なその水を覗き込んだ。そのときは、それが透明だと思い込んでいたのだ。本当は、透明と同じ色をしていただけなのに。一口だけすすってみると、思った通り、あまくて、優しくて。彼女はうっとりと味わった。少しずつ、少しずつ。「ジャッキー」の甘さをかみしめた。そしてそのすべてを飲み干したとき、彼女は初めてその水が透明でないことを知った。透明と同じ色をした、あまいあまい密のような水、とは、明らかに違った色彩が、そのマグ・カップの底にはあった。
その水は麻薬に近い性質を持っていた。彼女は次から次へと、「ジャッキー」のマグ・カップを買いあさった。その中にはいつでも、透明と同じ色をした水が、あまくかおっていた。
【第47話 ザンギ・F・不二雄 2004.4.18(日)】
昨日からジャッキーの部屋に泊まり込んで酒を飲んでいた男たち二人が帰ったあと、
ジャッキーの時給が100円上がった。
嬉しさの余り電話をかける。
ルルル。
ルルル。
「もしししし」
「もししししってなんやねん、代われ!」
「ルルル。ルルル」
「もしーん」
「もしーんってなんやー!代われ!」
「ルルル。ルルル。
「もしーん」
「俺のやー!俺のおもしろいやつやー!」
自宅で笑い飯を観ながらチャーハンを作り、黒夢を聴きながら鳥肌実を思い出し、レンタルをビデオしに行き帰宅し、『掠奪された七人の花嫁』を観る。
「よし、僕も花嫁を掠奪しに行こう」
と思い立ち、家を出たのが午前二時。自転車で八分の距離に住む女学生の家を訪ねる。
「コンコン、コンコン。もしーん」
「だれ?こんな夜更けにキャー」
「しんみょうにしろい」
「わかったわ」
「牧師はどこだ」
「押入の中よ」
「よし」
がらがらがら。
「ひいっ。わ、わたしにも妻も子も」
「いるのか」
「いました」
「いまは」
「いません」
ジャッキーは牧師の力を借りて女学生を花嫁に迎えた。
「ねえマイ花嫁。僕の身体には生まれたときから余ってるところが一カ所あるような気がするよ」
「ええマイ花婿。そういえば私の身体には生まれたときから足りないところが一カ所あるような気がするわ」
「そこで僕の身体の余っている部分を君の身体の足りない部分にさして、国土を産もうと思うのだがどうだろう」
「どうぞ」
「えい」
「きゃあ」
ずぶ。
「おぎゃ」
「ああ、国土」
「名は?」
「国土」
「まあ、名前まであなたにそっくり」
「君ほどじゃないさ」
「あなたったら」
それからの13年間を二人は幸せに過ごした。14年目の春に、女学生は死んだ。
「どうして人は死ぬんだろう」
「それはね、食パンには耳があるから」
「食パンには耳があるからか、じゃあしょうがねえな」
「つまり、人は死ぬってこと」
「変態が大好きな女の子がいる。僕はその女の子を、いつか抱いてしまいたいと思う」
「それでいいのよ」
「あとがこわい」
「それでいいのよ」
「でもしたい。変態がしたい。彼女だってそれを望んでいる」
「いいのよ。何だって好きなことをすればいいわ。苦しいかもしれない。死にたいかもしれない。でも、ハゲるまでの辛抱よ。ハゲさえすれば、あなたは死ねるもの。簡単に」
「どうして?」
「あなたは自分が大好きだから。ハゲていない自分が。ナルシストだから。ハゲたら死ねるのよ」
「じゃあ僕、ハゲるよ!大空に向かって」
「それでいいのよ」
ジャッキーは本当にそれでいいような気がしてきた。
「とりあえず得体の知れないサークルが主催している合コンに行ってくるよ。自転車のカゴにチラシが入れられていたんだ」
そう言って歩き出すジャッキー。
「痛快な気分だ。ウキウキだ」
塞ぎ込んでいたジャッキーは、ようやく明るい気持ちになってきたので、ペンを置いた。
【第46話 One Nine Three (ハリウッド版一休さん) 2004.4.17(土)】
ジャッキー、酔ってる。
(知らないのに知っているけどよく覚えてないと言うやつ。読んだことないのに読んだことあるけど忘れたと言うやつ。とりあえずどんな話にも「あーあー」とか「あったねえ」とか言っちゃうやつ。バレてるぞ、やめれ。
「あーあー、あったねえ。うん。なんかあった。なんだっけ」
君はきっと知ってるつもりになっているだけだ。君の記憶の中にある似たような事柄をかき集めてきて錯覚している、いや、錯覚しようと努めているだけの話だ。「『漫遊記』って漫画知ってる?」と問われたとして、もしも君が『珍遊記』に少しでも触れた経験があったならば、ほんの少しだけでもおぼろげな記憶を持っていたならば…、たとえ『漫遊記』を知らない場合でも、きっと「ああ、なんか読んだ気がする」「うんうん、知ってるよ」「なんだっけ」などと言うだろう。鼻持ちならない。
別に腹が立つわけでもないしそうやって言うやつが嫌いというわけではないが、自分の価値を上げようとして実は下げている様がどうも見ていて痛々しい。)
ジャッキー自身もよく使うテクニックだが自分の事は棚においておく。心に棚を作るのが大切なのだ。ジャッキーとしては自分は度を越し過ぎているわけではないはずだし自覚しているし一応気を付けているぞなどと思っている。しかしそれでも見栄を張ってしまうのだ。だからこそそういうことをしている他人がいやに目に付くのだろうし、見抜ける(少なくともジャッキーは「自分は見抜けている」と思っている)のだろう。
普通、他人の欠点に気が付くとき、自分も似たような欠点をどこかに抱えている、ということが多い。そういうときに「自分にはそんなこと言えない」「言えた義理じゃない」なんて思うのは駄目なのだ。似たような欠点を抱えていない人はそれに気付くことが困難である。だから、麻薬中毒者のリハビリ共同体を理想として動こう。とりあえず自分ができない、できてないなんてことは置いといて、お互いに罵声を飛ばし合いまくろう。遠慮していたらしょうがない。とジャッキーは思う。
やけくその引用句なんて嫌い。
やけくそじゃない、趣味だけの引用句なんてもっと嫌いだ。
そんなことするやつは全員、儚くなってしまえばいい。
と、ジャッキーは思う。
【第45話 伊藤整こう 2004.4.16(金)】
エグモント先生はその女子生徒に、最前列窓際に座っている男子生徒へ質問を投げかけて下さい、と言った。
「Wie heisst du?」
教室中の視線が一点に集まる。その焦点にある男子生徒は、一瞬迷ったような表情を見せてから、答えた。
「...Ich heisse Jacky」
一瞬、ジャッキーから音が遠ざかる。
彼は普段から常に「ジャッキー」と名乗っているため、「本名なの?」と尋ねられることも多い。
特にこの大学は世界中から学生が集まるため、「ジャッキーっていう奴がいてもおかしくねえや」などと思うのであろう。
教室はその刹那、全く静寂に覆われていたかのようにジャッキーには思えた。
ジャッキーは本名を明かした。
「いや、ていうかまあ、矢崎隆雄です」
温かげな爆笑がジャッキーを包む。「なんだよ本名じゃねえのかよ」「だったらなんだよジャッキーって」
エグモント先生も微笑を浮かべている。
思惑の通り、授業が終わるとジャッキーはすっかり「クラスの一員」となっていた。ジャッキーは二年生である。他の生徒は殆どが一年生である。ドイツ語Iは一年生の必修科目である。ジャッキーは去年ドイツ語の単位をとれなかった、いや、とらなかったのだ。五月くらいから一度も出席せず、自動的に落ちた。
再履修の人間が一年生の輪の中に入っていくことは余り簡単なことではない。そこでジャッキーは「ジャッキー」という最大の武器を利用したのだ。
その後、ジャッキーは一年生に混じってご飯を食べた。色々の話をする。とけ込む。他学部の娘に一度だけ「何年生ですか?」と問われたが「一年、一年」と答えた。ああ、自分は嘘をついたな、とジャッキーは思ったが、余り気にならなかった。
昼からは英語の授業。短編小説を読む。まずは小説の概説。「まず小説の中である事件が起きる、そしてその後にその事件に関連させてまた別の出来事を叙述する。いわゆる“大衆小説”のようにand then?の繰り返しで物語をサスペンス風に進行させていくだけではなくて、物語の中の様々な出来事が因果関係で結ばれているという複雑な形をとる。こういう形は“ストーリー”と区別して、“プロット”と呼ばれます」
先生の話を聞きながら、ジャッキーは体調の優れないことを感じていた。どうやら熱が出ているらしいことに気付いたのは、更にその次の授業が終わった後だった。その次の時間は授業がなく、更にその次の時間に授業がある。だから帰れない。ジャッキーは優しい女子生徒に看病されて夢見心地。
その後でまた別の優しい女子生徒がジャッキーにパンとパブロンを恵んでやった。ジャッキーは充実野菜でそれらを流し込んだ。そして人間の温かさを感じた。
最後の授業が終わり、ふらふらと校舎を出る。病によって出来上がってしまったジャッキーは、駅前で大演説会を繰り広げている。男子生徒と女子生徒が一名ずつそれを見守っている。見かねた男子生徒が呟く。
「自制が効かなくなってるな」
ジャッキーはすかさず突っ込む。
「時勢?テンスか?」
男子生徒も負けてはいない。
「アスペクトも効かなくなってる」
一瞬の沈黙の後、ジャッキーは女子生徒に説教をする。
「モダリティも効かなくなってる、って言わなきゃ」
女子生徒はなるほど、という顔をする。
テンス、アスペクト、モダリティ。三人が一年生の時に習った文法用語である。
ジャッキーは演説を続ける。
「文系的会話と理系的会話の違いというのは、その会話が小説的構造をとっているかどうか。もっと言えば、その会話の中にプロットが存在するかどうかなんだよ。理系的会話はいってみれば“大衆小説”だ。文系的会話はもっと知的な部分に踏み込んでくる、複雑な構造を持っているんだ。もちろん理系的会話がレベル低いとかいうわけじゃないし、いわゆる“理系”の人が理系的会話をして、“文系”が文系的会話をするものだと言っているわけでもない。会話には二つの対立する極があるんだ、ストーリーとプロット、あるいは理系と文系。より文系の極に寄った会話のほうが僕は好きだと、ただそれだけのことでね。理系の思考が直線的に論理を積み上げていくものだとすると、文系はもっと自由奔放に論理の遊戯を楽しむ。なんて紋切り型な言い方は嫌いかい?全部わかってる。あえてやってるだけだ。僕らは去年テンスとアスペクトとモダリティを学んだ。つまりさっきのように、今またここでそれを引っぱり出してくるっていうのは、これは小説的な構造を持った会話だったってこと。小説を読まないやつ、または複雑な物語に触れたことがないやつは僕にとって面白いと思えるような会話ができないんだよ、小説的構造が内面化されていないから」
ジャッキーは自分が何を喋ってるのかよくわからなかった。
「伏線。僕らが今テンス・アスペクト・モダリティに関する会話をしたことによってあの授業が伏線に変わったんだ。会話の中で伏線は縦横無尽に張り巡らされていく。創作行為なんだ、会話というのは。小説を書くのと同じことなんだ。網の目のような伏線が緻密に張り巡らされた岡田淳の『扉のむこうの物語』はそういう小説で、“伏線を作っていく物語”と言い換えることすらできるかもしれない。その伏線の迷路、論理の迷宮。つまり『扉のむこうの物語』という作品そのものが、行也とママの彷徨うあの迷宮の世界と相似的な関係にあり、そしてひょっとしたらフラクタル的な構造を持つとさえ言えてしまうかもしれない。簡単に言えば入れ子型的な」
この第45話の中頃、昼過ぎの英語の授業を記述した部分で先生がストーリーとプロットについて述べている。そしてその記述自体が後半のジャッキーの語りシーンへの伏線になっている。つまり先生の語っている内容と第45話全体の構成とが相似的な関係にあるということで、それはまさに『扉のむこうの物語』と同じ構造をしているということで。
「まあ、こんな説教に普遍性なんかない、こんな論理に普遍性なんか、ありゃしないんだけどね!」
【第44話 花*糞 2004.4.15(木)】
「となりの人をつついてみてください
となりの人が目を覚ましたとしたら
となりの人は眠っていたのです」
【第43話 難局物語~たぶんこういう洒落なんだろうな~ 2004.4.14(水)】
『難局物語』 原作:SDP 脚本:MDP(もう駄目ぽ or 無茶だらパー)
幕、上がる。
ジャッキーの頭上、二人の男が対話を交わしている。照明と同時にせりふ入る。
男1 ホンットに最高の女の子だね!
熱っぽく語り出す男1。
男1 並ぶとすっごいお似合いって感じだし、
あんな娘に巡り会えるなんて!運命だよ。
やっぱ神様ってホントにいるのかも。
うん、うん。君みたいなのにはピッタリだよ。こういう何でもない女の子が
ジャッキー、徐々に喜びの表情をつくる。
が、男1のせりふが終わると同時に間髪入れず男2のせりふ。
男2 「何にもない」の間違いじゃないの?
見よ!こののっぺりとした顔を
スクリーンにやや不細工な(それでいてややジャッキー好みな)女の写真が映し出される。
ジャッキーの表情が不安の色に染まっていく。
男2 よく見ろよ、ほら不細工じゃん。
こいつじゃねーだろ、百歩引いて見ても。
出逢いは他にも幾らでもあるし、女なんかその辺に腐るほどいるし?しかもバカばっか。
そこそこのルックスに慶應教育の肩書き、加えて並はずれたペテン能力
そんだけあったら入れ食い入れ食い、もう大フィーバーだ!
ジャッキーの顔に迷いの色が浮かぶ。そして明らかに自信をなくし、判断力も低下している様子。
男1 大フィーバーならこの娘としちゃったらいーでしょ?
他人の目なんて関係なーい、なーい。
幸福のオーラでいつでもどこでも密室気分。
二人だけの世界へレッツメイクアトリップ!
山ほどあるでしょ、この娘のいいとこ、
作ってくれたよ、スパゲッティ・バジリコ!
スクリーンにスパゲッティ・バジリコ。高級イタリアレストランに出されるような素晴らしい出来具合。
男2 あの青カビ乗っかったうどんのこと?
スクリーン切り替わり、あからさまに不格好で毒々しい色をしたスパゲッティ・バジリコ(?)を映す。
男2 フォローすんなよ、惰性だろ?
ジャッキー、悲愴。
間。
ややあって、再び男1のフォロー。
男1 …ま、それもあるけども、
それを乗り越えてこそ、
真の愛情が生まれるってもんでしょ?
せりふの間に、少しずつ前向きな表情をゆっくりと取り戻していくジャッキー。
しかし間髪入れずに男2のせりふ。
男2 なーいない、そんなこと絶対ない
急にジャッキーの表情が固まり、やがて苦悶の表情を浮かべ何か考え込む姿勢をとる。
音響が鳴り始め、照明変化も利用し場面は次第に盛り上がっていく。
男1 結局
男2 難局
男1・男2 この問題、
盛り上がり続けていた音響が急に止まり、うつむいていたジャッキー、顔を上げて叫ぶ。
ジャッキー 保留!
三秒待って、
幕。
ルルル。ルルル。
「あ、ジャッキーだけど。やっぱ明日遊ばない?池袋あたりで。うん。愛してる」
【第42話 恋文首相 2004.4.13(火)】
「全く。スグにえいきょうされるんだから」
飛び交う固有名詞、行き場のない気持ちを引用句に押し込める。本当は言葉が出てこないだけなんだって知ってる。
「他人の瞳に映った自分を見て御覧よ」
みっともない。から回ってる。自分ゾーンの中で陽気に狂っている。ただ単なるそれはセルフ・プレジャー。
ジャッキーは風呂場に行ってお湯を出してみた。ボトボトと流れ零れる。それを手で受ける。熱い。跳ね返った水滴が素足に。冷たい。
どうしてなんだろう?
「とばっちりは冷たい。それはお湯でも、情熱でも」
君のこと言ってんだ。そんなままじゃ“ジャッキー”という呪縛から逃れられやしないんだ。
ヘコヘコヘコヘコ。
仲良しの女の子が見知らぬ男の子と相合い傘帰宅しててヘコヘコヘコヘコヘコ。
(仮面と本性はメルティングポットの中だ)
その単語・その文法は既に、ジャッキーの中でターム化されている。
http://www.google.co.jp/search?q=%E5%A5%B3%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%80%80ozakit%E3%80%80nifty+homepage2&hl=ja&lr=&ie=UTF-8&inlang=ja&c2coff=1&filter=0
【第41話 NISSHIN月報 2004.4.12(月)】
エロ本を探すため河川敷を自転車でひた走る少年の耳に僅かながらの喘ぎ声、足を止め耳を澄ます。「空耳か」再び自転車を走らせる。幻聴は繰り返される。“あーん”なんて。「やめろ。やめてくれ。僕はそんな。あああああ。待てよ」少年はエロ本捜索を中止し帰宅した。
少年の幻聴は次第にエスカレートしていく。エロ本など必要がなくなったのだ。ヘルシーでエコノミック、クリエイティブかつエキサイティング!
それから少年の周りには次第に人が集まるようになった。それまで友達が居らずいつも教室の隅で独りジルバを踊っていた少年のもとに…
「おう、吉田。今日もエロ話聞かせてくれよ」
「了解」
「ほらよ、30円」
「サンキュ」
“歩くエロ本”…彼につけられたあだ名である。
「いやあ、ありがとう。抜ける上にエロ本買うより安いし。本当良い奴だなお前って」
「いやあ、ありがとう」
そこへひとりのクラスメイトがやってくる。
「なんだよ、鈴木。お前吉田のエロ話聞いてたのかよ。けっずるいなー。おい吉田。おれにも抜かして、いや聞かしてくれよ」
「お安いご用さ」
「じゃ、30円」
「あーん」なんて。
【第40話 裁縫道具009 2004.4.11(日)】
暗い部屋で一人、テレビはつけたままジャッキーは震えている。「日本人が殺されてしまう!」ガクガクブルブル。「僕と同じ日本人が!」自衛隊を撤退させなければ三人の命はないとテレビは言う。「我が国はどうなってしまうのだろう!」コメンテーターが、どちらに転んでも日本に良いようには働かないと述べる。「どうしたら!」
「なんてこった。日本人が殺されるだなんて」
「飲み過ぎよ、ジャッキー」
「るせえ。これが飲まずにいられますかってんだヒック」
「どうかしたの?」
「日本人が殺されるんだぞ?僕らと同じ、日本人が!」
「ええ?ほんとう?まあ大変!我が国の同志が殺されてしまうなんて」
「信じたくないけど事実なんだ、日本人が殺される。明日までに自衛隊を撤退させないと」
「でも自衛隊を撤退させたら我が国はどうなってしまうの」
「腰抜けタツタカントリーに認定されて、テロルを受けるだろうよ」
「まあ!それではどのみち我々日本人が多かれ少なかれ遅かれ早かれ殺されてしまうじゃないの!」
「そうなんだよ。僕ら日本人が」
「殺されるだなんて!ああ!」
「ママ!」
「…ごめんなさいただの立ちくらみよ」
「しっかり」
「ありがとう。気分が良くないからお店を閉めるわ」
「じゃあ、僕もそろそろおいとましようか…」
「いて」
「え」
「ここに」
「それって」
「…」
「ごくり」
「こくり」
「がおー」
ジャッキーは煙草をふかす。ホットなスモークが空に溶けてった。「ああ、痛快で爽快な。こんな気持ちうまく言えたことがない!」隣に寝ている四十女を横目に見ながら想う。「ああ。そういえば今日は日本人が殺される日だったなあ。僕と同じ日本人が…」コマンド:おもいだす「大変だ!ママ!ママ!起きて」
「どうしたの、ジャッキー」
「日本人が殺されてしまうんだ」
「まあ大変!」
「どうにかしないと」
「どうしましょう」
「とにかく行こう!さあ!とりあえず貯金をおろして!」
「わかったわ。お店をリニューアルしようと貯めたお金が一千万あるの」
「上出来だ!さあいざ今ビバ銀行へ」
一千万円を鞄に詰め込み、空港へ。
「流石にイラク便はがら空きだね」
「そうね」
「僕はエコノミーで行くからママはファーストで」
「え?」
「僕はエコノミーで行くからママはファーストで」
「どうして?」
「なんとなく」
「なんとなくか。じゃあしょうがないなあ」
「イラクで会おうね」
「ええ」
イラクにて。
「ジャッキー!ジャッキー?どこにいるの?」
声は虚しくこだました。
【第39話 新世紀エリンギ 2004.4.10(土)】
「行かないで!」声を限りに叫ぶ。「君が必要なんだ」
「ほんとう?」少女は目を輝かす。
「うんっ」
無邪気な笑顔で力いっぱいにうなずく。
そして二人はベッドに飛び込んだ。
「寂しいんだよ。寂しい」
全力で抱きしめる。
何も見えていない。
「ミサトさんも綾波も怖いんだっ」
少女が肉塊に変わる。
「アスカ、助けてよっ!」
虚しさの中に冷静が沈殿したような生臭い部屋の中で、少年に囁く。
「あなたは他人のことなんて何も考えていないわ」
「そのくせ寂しがる」
「あの人と同じね」
【第38話 世界に一つだけの花花 2004.4.10(土)】
包丁が時と
ブロッコリーを刻む。しめじを刻む。そしてじゃがいもの皮を剥く。ジャッキーはじゃがいもの皮を剥く。ピラーには頼らない。詩を詠う。
君のいなくなったこの部屋で
僕はじゃがいもの皮を剥く
人間ピラーと呼べるまで
僕はじゃがいもの皮を剥く
いつになったら
追いつけるんだろう
見えなくなってしまった君へ
遠くへ行っちゃった君へ
だから僕はじゃがいもの皮を剥く
少しでも前へ進むために
あとどれだけじゃがいもの皮を剥けば
君に逢えるんだろう
あとどれだけのじゃがいもを僕は食べれば
君に逢えるのかな…
旋律の無い詩を脳内で展開する。酔いしれながら。包丁を動かして。皮を剥がれたじゃがいもは黄金に輝いて、ゴールデンデリーシャスな林檎を思わせるほどに煌めいていた。もっと陶酔しているために、ジャッキーはもう一つのじゃがいもにも手を伸ばす。そして皮を剥ぎながら言葉を紡ぎ、メロディを待つ。天使を。
ブロッコリーを鍋に。しめじを鍋に。そして賽の目にバラされたじゃがいもを鍋の中に入れる。火を付ける。つまり煮込む。少し待つ。灰汁を取る。火を止める。ルーを入れる。ルーを融かす。とろみがつくまで煮込む。時折かき混ぜる。カレーの完成。ブロッコリーとしめじと、じゃがいものカレーが。キャベツはどうした?
【第37話 二つに一つの座椅子 2004.4.9(金)】
ジャッキーは、「playerz69」と書かれた深紅のウィンドブレーカーに、純白のきめ細かなズボーン。黄色いカラー・グラスを掛け、首からは“J”マークの入った銀のネックレスとドラえもんのぬいぐるみをぶらさげる。左腕にザクII[MS-06F]仕様のグリーンなウォッチ。長い髪をアメリカピンで留めて、素っぴん。イヤーフォンからこぼれ落ちるメロディはhideの『DICE』。大声で叫びながらブリヂストンのけった、愛車「おざわ」を全速力で駆って登校。5分で科目登録を済ませ、ひとしきり暴れる。
「ああ、君なんかアレだね、黒夢の人時じゃないほうに似てるね」
バイトで古典文法を教えた後は新宿に行って朝まで歌う。酒を飲む。「二日酔いが怖くて酒が飲めるか!それなら三日三晩飲み続けりゃ怖くねえ!」でも翌朝はひどく後遺症に犯されてる。他人の家で昼まで寝、やがて目を覚ますと、言う。「おい枕元にあったミチコロンドンのコンドーム、もらっとくからな」使う宛もない避妊具に振り回されて。
【第36話 怖がられるほど愛しても1/3も伝わらない 2004.4.8(木)】
ジャッキーはTVを眺める。「知らないことだらけの扉が開いてしまったの。覗き込めばたちまち吸い込まれてしまう」いつものアニメのオープニング・ソング。創刊号から日本一元気な少年漫画誌“ガンガン”を愛読していたジャッキーは、毎週このアニメを見ている。『魔法陣グルグル』を視聴することは小学生としてのステイタスだった。教室では可愛げなガールが“キタキタ踊り”に勤しんでいたし、横尾まりのナレーションを真似た“突っ込み”は学校中で聞かれた。そんな彼らに対して、いち早く原作に目を付けていたジャッキーは少なからず優越感を抱いていた。「“突っ込み”は声じゃダメだ、文字で突っ込むからRPGっぽさが出てイイんだ」「キタキタ踊りのメロディが原作の歌詞と合わない」などとガキらしく一面的なぼやきを胸の中でこねくり回しながら、ジャッキーはTVを眺めている。ニケやククリやおやじやカセギゴールドが活躍する。「お前らのハナミズを飲みつくしてくれるわ」そして本編が終わる。CMに入る。ジャッキーはトイレに行く。そしてTVの前にどっしりと座る。CMが明ける…。
ちゃーんちゃーん
ちゃんちゃーんちゃーん
ちゃーんちゃーんちゃんちゃーんちゃんちゃん
ちゃーんちゃーん
ちゃんちゃーんちゃーん
ちゃーんちゃーんちゃんちゃーんちゃんちゃん
ちゃっちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃっちゃっちゃ
ちゃっちゃちゃっちゃっちゃ
ジャッキーは画面を凝視。耳を澄ます。「誕生日を迎える度に何を祝うのかがずっとナゾだった。見えなくなってしまったものは二度とかえらないと知ったとき、年を経ることに後悔と一日が過ぎていく恐怖を感じた」ジャッキー、小学四年生。漫画『ドラえもん』の野比のび太と同い年だがこの際それはどうでもいい。『魔法陣グルグル』は1994年10月13日から放送を開始した。それをジャッキーは毎週視聴していた。ジャッキーは1994年11月1日に10歳の誕生日を迎えた。“ガンガン”についてくる懸賞ハガキの年齢欄に、二桁の数字を書き込むことが何よりも苦痛だった。1994年10月13日。10歳の誕生日を目前に控えたジャッキーが、初めて『魔法陣グルグル』のエンディング・テーマを聴いた時に思ったのは、そういったことだった。それ以来、ジャッキーは本編が終わった後のCM中に必ずトイレに行き、TVの真ん前にスタンバり、エンディングが始まると食い入るように画面を見つめ、耳を澄ませた。
年をとるのがイヤだった。ジャッキーは「ピーターパン」だった。『魔法陣グルグル』の放送が始まった翌年の秋、小学校五年生のジャッキーは自ら立候補して学芸会で「ピーターパン」を演じた。中学に入り、図書館で借りた芹生一訳の『ピーター・パンとウェンディ』を胸震わせながら読み、高校一年生の英語の授業で「なぜ英語を勉強するのか?」と教師に問われ、「ピーター・パンを原書で読むためです」と答えた。そして大学に入ってから書いた小説のタイトルは、『ピーター・パンとウェンディ』の中の一節からとった。
Two is the beginning of the end.
ジャッキーは年をとることが苦痛で仕方なかった。奥井亜紀の『Wind Climbing~風にあそばれて~』という曲も、はじめ、そういう曲なんだと思った。でも、毎週TVの前に座ってそれを聴いているとすぐに、まったく違う、そうではないのだ、と思うようになった。
ジャッキーは小学三年生のときに初めての「物語」を書いた。それをクラスメイトは面白がって読んだ。当時暗くて、じめじめしていて、友達も少なかったジャッキーは少しだけ自信をつけて、思った。「これだ」
ジャッキーは耳を澄ます。「どうにもならない今日だけど平坦な道じゃきっとつまらない、きみと生きてく明日だから這いあがるくらいでちょうどいい」そうだ。どうにもならない。どうしたって今日はすぎていくんだ。それなら。TVから繰り返し聞こえてくるフレーズ。「どうにもならない今日だけど」このフレーズを聴くと、居ても立ってもいられなくなる。身体がそわそわとして、部屋中を歩き回る。何かしなくちゃ。何か。何だ?「これだ」ジャッキーは自分の部屋に帰って、原稿用紙を広げ鉛筆を握った。
「ふぉっふぉっふぉ。これがおじいちゃんとこの曲との出会いじゃよ。その後山里で紙敷を見たジャッキーは、海の人たちに海苔作りを教えたんじゃと」「ほんとー?」「さーて?ううぇっふぇっひゅぇっふぇっへえへえへぇぇえへへ。嘘じゃよ」
【第35話 ひったくりマシーン 2004.4.7(水)】
ジャッキーは「ああ、やっぱ芝居やるんだ」と思った。一年前の自分は「二年になったらやるかもしらんしやらんかもしらん。今年はとりあえずオヤスミ」なんて内容のことをそこら中にばらまいて暮らしていたが、実際そんなつもりは毛頭なかった。自分は一生演劇などやらんだろうなあという気持ちは日増しに大きくなっていった。数日前までは「あー今年は授業とバイト三昧。余暇はすべて読書。そして少々のデート」なんてノーテンキロキロなプランニングっぷりだったのに。ほんの数日前まで ah ah ah ah ほんの数日前まで
【第34話 ダックスフレンド 2004.4.6(火)】
ダックスフンド。
セックスフンド。
ダックスフレンド。
セックスフレンド。
「えっちなんかしても
僕は本気じゃないよ
愛情なんて全く持ってないし
正直にこの気持ち
うまく言えないだけ
分かっているよ
僕を愛 していることは
だけど…
思いをそっと
つたえておくれ
Sex Friend
Sex Friend
大切なひと
いちばん
手軽な
僕の
Sex Friend」
2004年度
4.10
栄田家で昼まで寝る。コンドームをもらう。英語の参考書を買い取る。リサイクルショップに寄って服を買う。Sads聴きながらカレーを作る。黒夢聴きながら喰う。今。Sadsのファーストを聴いてるとそんなに黒夢がいやだったのかこの人はと思う。今夜ジャパンカウントダウンに清春が出る。見ないと。
4.9
学校。バイト。新宿で栄田氏らと朝までカラオケ。飲み放題で酔う。黒夢とSadsとhideとイエモンに酔う。ガオガイガーが入ってなくて憤慨。
4.8
一日中家の中に。
4.7
20時よりバイト。帰り道タネキンで食料を買う。
4.6
金山駅。スタバ。涙の別れ。かと思いきや定期が二枚あったので一枚パクって名鉄に乗る。カードが赤いが気にしない。トリプルパフォーマンスで改札を通れます。駅から花見しながら歩く。お土産を受け取る。自転車を借りる。ありがとう。ふたたび金山。hideベスト&Ja,Zooをエンドレスで聴きながら東京へ。横浜で降りて、湘南新宿ラインで帰ろうかと思ったら失敗。電車止まるし。結局品川まで行って山手線。やれやれ。めしや丼行くんじゃなかった。浪費。戒。
4.5
今池ピーカンファッジでアルバムを17枚購入。一枚150円。ルナシーラルクヒスブルカスケードソフィアゆず電気サッズグレイ真矢佐野元春。中学のころ真矢と三重野瞳がやってたディーパーストリートという番組を聴いていたので想い出に一枚。山崎川で花見。カラオケ。花が咲いたので迎えにいく予定だったのがTCとYBの件等で長電話。果たされはしない約束。行けなくなってしまった。ごめんなさい。また明日に逢いましょう。TCとは映画や学校の話などしてかなり充実。また話さねば。
4.4
岩倉の祖父家へ。途中道を間違えるも花見気分で解消。到着。福祉が充実。相談ボタン有。ご飯食べるのもそこそこに小牧へ。珍しく大胆な自分を発見。可愛い女の子には目がない。いや目がなかったら絶対かわいくないやん!なんて。田県神社の堂の中にはやっぱりああいうものがひしめいているらしい。花見して、瀬戸へ。ナフコでお菓子。途中なみちゃんから電話がかかってくる。「10月ころに公演やるんだけど。イケが作演出で。携わらない?」「ああ、やる」というわけでたぶん芝居やります。瀬戸駅前でエア・マンボをふかしていると赤いのがやってきた。麒麟氏。キリンジ。神社で酒盛り。ポータブルバーナーで熱燗。ねるねるねるね。トリス鬼ころし。ってか花見。ジャからベルベットの空の下。JARIAまだ見ぬすべてに。サークルK。電話。アイス。いなすんワールド。鳥肌実。漫画太郎。うめ謎。ゆらゆら帝国。六本木心中。コーネリアスの全アルバムとドクターヘッド。キリンジが寝申したので我も炬燵で寝る。起きる。帰る。
4.3
午後下がり余りにも寂しいので南下サイクリング。勝訴ストリップ。踊る熊にて書物を大量購入。花が咲いたので蔦屋さんへあの人に会いに行く。ブックオフに行って嗚呼、青春の日々を購入することによってとうとうゆずのシングルコンプ。あとサッズと黒夢購入。カードを新規作成。出ようとしたら『強い気持ち・強い愛』が流れる。終わるまで待ってから店を出る。二人きりの帰り道、お花見は一生続いたほうがいい。
4.2
愛のために寝坊。帰京が4日ほど順延。セさんはホントにいい人だ。タモリ倶楽部でホンコンさんがすがきやをベタぼめ。たかゆき氏の家に一撃必殺トレーナーを見せに行く。ひとしきり暴れて遊ぶ。添え木を呼び出したらなんかテンション低め。ってかちょう不機嫌。仕方ないのだ。僕とたかゆきの辞書に非常識という文字はない。そもそも辞書さえ見当たらない。とうとうスタスタと帰ってしまう始末。たかゆき氏憤慨。三桜公園で花見。ひとしきり。帰宅午前四時。
4.1
ヒユから「ドラゴンボール完全版の最終巻に4ページの加筆があるらしいよ」と送られてきたのが午前零時丁度。でも僕は君を信じる。帰郷。ハユ宅にお邪魔し。職場へ冷やかし。途中伊藤よう加藤へ立ち寄るもやはりハロランで服(一撃必殺トレーナー+赤いplayerz69ウィンドブレーカー)をチョイス&パーチェス。散歩。四時間後、花見。デニーズで夜デニセットに気づかない。江古田のデニーズに入ったときと同じことを繰り返している。僕はまた途方に暮れる。深夜だがお泊まりの人を雨のなか壊れるほどの抱擁とキスで。
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