Two is the beginning of the end 第22話~第33話

 過去ログ  1~21  22~33  34~66  TOP
【第33話 天気読みのシーン  2004.3.31(水)】

 ジャッキーは煙草を吹かし、千日の昔に思いを馳せる。あの頃は若かったなんて、死ねば良いこと言いたくはない。
 色々あったけどそれも青春だ。
 「いいってことよ、大目に見るよ」煙を吸い込み、吐き出す。「俺」
 かなり目に浸みた。

 過去の景色がフラッシュ・バックする。


僕は言い訳が大嫌いだ。
自慢は嫌いではない、しかし、遠回しにする自慢は、嫌いだ。
自分は他とは違う、優れた人間であるという主張をする。嫌いだ。
いつもいい人ぶっていて、それでいて腹の中には違う悪い心を持っていて、それを内に秘めている分には問題ないのに、それを外に出して、トゲのある発言や、怒りに満ちた自分本位な発言を安全な言葉を選んで網羅し、笑顔でごまかすことは、大嫌いだ。
常に自分は正しくあると思っていて、それを他の人にやたら提示するのは嫌いだ。
自分で言ったことに対して自分で大笑いして、他の人の様子をちらりとうかがうなんて嫌いだ。
ゲームで勝ち続け、「勝ち逃げは嫌だ」と言って終わらず、「どうして、勝っちゃうんだろう」なんて笑いながら言うのは嫌いだ。
卑怯だ。
これは、憎しみではなく、気持ち悪い、と言った方が近い。
こういう人間が近くで勝手なことを安全に喋っているのを聞くと、うんざり、げんなりする。
周りではいい人で通っているその人に、他の人は何も言えない。その様子を見るのも、辛い。
八方美人という言葉に近いが、少し違う。七方美人?
実に、うざったいの。
人間としてのレベルが、非常に低いのだ。
しかし、僕はこの人に感謝しなくてはならない。
あなたは、とても良い反面教師でした。
人間としてしてはならないことを、たくさん教えてくれましたね。ありがとうございます。
あなたのおかげで僕は、また少し、素敵に素晴らしい人間に近づけたような気がしますよ。
何がうざったく、何が腹立たしいのか、それを学習できました。
世の中には、あなたのような人間が存在するのだと言うことを、初めは驚きました。これも一種の人生経験です。
これまで、ありがとうございました。
僕は絶対に、あなたのような生き方はしません。


 バイバイ。

【第32話 欺瞞の壺  2004.3.30(火)】

 「いいタイミング」
 「タイミング?」
 「ちょうどメールがしたかったとこで。まあ、それを言えばいつだってグッドタイミングなんだけど」
 「ふうん。ありますよね、そういうこと」
 見事に流すんだな、とジャッキーは思った。
 「ズレた間の悪さも♪」
 「なあにそれ」
 「ブラックビスケッツの『タイミング』。“ズレた間のワルさも、それも君のタイミング、僕のココロ悩ます、なんてフシギなチカラ”」
 ジャッキーはわざと、“和ます”を“悩ます”と歌ってみた。
 「へえ」
 「意味なくてごめん」
 「いえいえ」
 「恋する乙女だからさ」
 「乙女?」
 「乙女乙女。そいで悪けりゃ思春期だな。だから恋されるほうは大変、周りにあるものが何も見えてない、でも無いものは見えすぎてる」
 「飲んでます?」
 ジャッキーは溜息をついた。やっぱり流すんだね。まったくもって、フシギなチカラ。
 「野菜ジュース。ああ酔い!中世の詩人の如く溢れ出る愛の波濤が如何ともし難く。僕の心は震え熱情がはねっ返る。やっぱ神様いるから!愛してるよv」
 明らかに酔っぱらって。
 「逢いたいな」
 嬉しい流し方…。
 「多少狂ってる人間でいいなら(笑)なんか処方を心得てきてるね」
 「処方じゃないもん」
 「わかってるよっ☆そう言わせたかっただけ」
 「あら。なんだか操り人形みたい」
 「し、失敬っ。だって好きだから。僕も逢いたいよう」
 “逢”という字ときたら。
 「寂しいよう。大学は寂しいところですよ」
 「あは。僕の愛ちゃんはいつでもあなたと一緒ですよ」
 「ほんとう?覚えておくです」
 「うん。ちなみに愛ちゃんはうちゅうより長生きだから」
 「はは。うまいこと言う」
 「寂しくなったら、僕か愛ちゃんに言ってね」
 「はい」
 「約束」


 主題歌「夏も間近い 二人の誓い 果たされはしない 約束 彼女は待つの WHY? 意味わかんない? もう一回 思い返して もおいいか…」

 ナレーション「大人はすぐ、“また”とか“いつか”とか言っちまうんだよなあ…」


 「無視される意味と脈絡。道徳律は暗黙の了解として安らぎの源となり…ダメだ。こりゃ駄作だ。まあ、そんな日もある。
 アゼルバイジャンな夜はセツノーナルに更けていく。
 『頑張れよ』『負けるな』『元気出せ』『強く生きろ』『そんな日もある』『なんとかなるなる』『明日があるさ』
 そんな言葉を忌み嫌う諸君。
 素直に受け容れたらいいじゃないか。
 世界はこんなにも薔薇色で素敵だ。何故なら僕らは恋をしている。
 信じろ神様を。
 「頑張れよ」を気にしないのがレベル1で
 気にするのがレベル2だとしたら
 それを越えてしまうのがレベル3だぞ
 それを通過しないとレベル4にいけないぞ
 一生メラ止まりだぞ
 ギラを唱えたくはないのか、勇者よ
 『びりっかすの神様』(岡田淳・偕成社)を読め。
 恋をしていることをありのまま受け容れ語るのがレベル1なら
 恥ずかしくて秘めたがるのがレベル2で
 そのさらに先がレベル3
 だと思うんだがね」
 でもジャッキーには、レベル3がどんななんだか、微塵も見えてない。結局は全て好みの問題だってことで、一律レベルワン?
 「んなバカな!俺様はトクベツだ!」
 未だに本気で考えたりもするんだ。

 ゲゲゲゲー駄作だ。「要するにフリッパーズ・ギターはレベル2で小沢のソロはレベル3だってことが言いたいだけなんだ。ある側面からのみ見た尺度だけど。
 素直に生きたらいいんだ。いいじゃないか。開き直り、“これでいいのだ”の精神。何もかも単純に、浅く考えて」

【第31話 人間でぇむん  2004.3.29(月)】

 「ちょっと。これなあに?」
 彼女は畳の上に落ちていたちりちりの毛をそっとつまみ上げた。
 「毛だろ」ジャッキーは顔色一つ変えずに答える。
 「陰毛ね。明らかに」
 随分と気分を昂揚させているようだった。
 「陰毛だろうよ」ジャッキーは少しだけ顔を赤らめる。「いいじゃないか、部屋に陰毛が落ちていたって。別に」
 「良くないわよ」苛立たしげに髪を掻き上げる。彼女の癖だ。「部屋に陰毛が落ちているということは」
 「落ちているということは?」
 「部屋に陰毛が落ちているっていうことは、ねえ。…そういうことじゃない?」
 「どういうことなのさ」
 「つまり」彼女は一呼吸おいて、吐き出すように言う。「この部屋の中で、裸になったっていうことじゃない!?このアパート、お風呂なんてないし。トイレも共同だし。いったいどうして服を脱ぐ必要があったっていうの?こんな真冬に。ねえ、どういうこと?」
 ジャッキーは言葉に詰まった。
 「いいじゃないか、そんなこと。どうだってさ」
 「よくないわよ!」彼女は激昂して叫ぶ。「部屋の中で裸になる状況なんて、一つだけしか考えられないわ。あたしというものがありながら、…誰の陰毛なのよ!」
 「そりゃあ、僕の陰毛だろ」
 「そうかもしれない、だけど、あなたがどうしてこの部屋で裸になるの?あたし、この部屋で抱かれた覚えなんてないわよ?」
 「隣に声がまる聞こえだからだろ。他の娘だって抱けないよ。やましいことなんか何にもない」
 「声を出さない娘かもしれないわ」
 「この部屋に君以外の女の子が入ってきたことなんてないさ」
 「じゃあどうして裸になるの?なぜ陰毛が落ちるの?ズボンのすそからこぼれ落ちたとでもいうの?」
 「そういうこともあるだろうさ」
 「だってあなた、ぶ、ブリーフじゃないの!」
 ジャッキーはうんざりした。
 「事情があるんだよ。男には男の。一人暮らしの部屋の中で、裸になる事情が」
 「その事情とやらを教えて頂戴」
 「そりゃあ…」ジャッキー、やや照れる。
 「なによ」
 「…」
 「見え透いた嘘!死ね!」
 彼女はジャッキーに花瓶を投げつける。畳が濡れ、破片が飛び散る。
 そして部屋を出ていく。
 ジャッキーは呆然と立ちつくし、やがてシャツを脱ぎ、干し、ズボンを脱ぎ、干し、ブリーフをゴミ箱に投げ入れて、押入れからエロ本を引きずり出す。

【第30話 ライスライス部  2004.3.28(日)】

 「ごめんなさい」で有耶無耶に終わる会話。消化不良の。相互理解が極めて困難な。冷めた素肌の内側で静かに燃え上がる彼女の秘密すぎる本心をいつも掴もうとしてる。だけど手を伸ばしてもいつも、興味なさそうな横顔で欲しくないふり。寂しくて手を引っ込めようとすれば、悲しげな瞳が一直線に注がれて。それだけで充分、何を言いたいのかくらいわかる。誰を愛しているのかなんてことも。そうやって一進一退を繰り返し、同じ会話の繰り返し。幸福そうな未来も、目の前を彷徨っては翳って消える。互いに好みのカードを知らずに、エースか?キングか?と戸惑っている。


 「君の欲しい愛撫はどんなだ?」
 彼の欲しいのは、あえぎ声。

 乳首を弄ぶ。
 でも声一つ出さない。
 感じているのか、いないのか?
 「僕の欲しい愛撫は、あえぎ声」
 声を出し始める。恥ずかしげに。小さく。
 感じているのか、いないのか。

 清楚で可憐な女が好みか、はたまた過激で淫乱か?
 「僕の欲しい愛撫は、あえぎ声」
 すると声が出た。自然に出たのか、違うのか。


 つかずはなれずの心。疑いと信仰の狭間を彷徨うかなりじれったい愛。性感帯を探して皮膚表面の旅に出る指。いつまで経っても内に届かない、胸のふくらみが距離を作る。「好きです」「ありがと」在り来たりな言葉に夢のある意味合いを付与するのはいつだって妄想だ。心にかかってる、常に曖昧な、根拠のない、フワフワな霞。

【第29話 花が咲いたら迎えに来てね、同じキモさでここにいるから  2004.3.27(土)】

 金山駅で降りると男が二人、ジャッキーに跪き言う。
 「お待ちしておりました」
 「うむ」とジャッキーは答えて、用意されていたブラック・ワゴナールに乗り込む。
 スピード違反、信号無視を繰り返しながら車は走り、大きな洋館の傍らに停められる。その中の一室にジャッキーは通された。
 おもむろに本を広げ、スイッチを押し始める。

 「ガガガッ ガガガッ ガオガイガー! ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー!」

 宴は朝まで続き、ファミレスでタメ口のおばちゃんと戦った後戦士たちは別れる。ボンバー。
 一人になって、ポケットから折り畳み自転車を取り出すと、ジャッキーはやれやれと首を振り呟いた。
 「眠い。昨日は三時間くらいしか寝なかったし、電車の中でもほとんど眠らなかったからな。しかも足痛い」
 ジャッキーには家に帰るだけの体力も残っていなかった。
 「とりあえず」
 ぬいぐるみをプレゼントしに行くことにした。家とは正反対の方向。
 「わあい先輩☆」
 うい奴だ。ジャッキーは満足して踵を返す。
 ヨタヨタと千鳥けった。けったとは標準語で自転車の意味!つまりラバーメンとはゴム人間のことー。
 そんなこんなで風に吹かれてフラリフラリ、よろよろ。
 「もうダメだ、死ぬ」ジャッキーは絶望した。
 「死ね」心の中のもう一人のジャッキーが答える。
 「そうだ死ね」三人目のジャッキーが囃し立てる。
 「イヤだ死にたくない」ジャッキーは叫んだ。
 「そうか。仕方ないな」心の中のもう一人のジャッキーは決心した。「ここは俺が死んでおくよ」
 「待ってくれ」三人目のジャッキーが言う。「今回は俺が死ぬさ」
 声を揃えて「なんだとう」。死を巡って、心の中のもう一人のジャッキーと三人目のジャッキーとの間で口論が始められてしまった。
 「いや俺が死ぬ!」
 「いや俺が死ぬって!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「俺が死ぬ!」
 「じゃあ俺が」
 「どうぞどうぞどうぞ」

 死んだジャッキーはいつの間にかベッドの上にいた。目の前に少女。制服の少女。僕らは愛し合っていた。
 …なんで、生きてるんだ?僕は。
 とりあえず幾度となく愛し、愛し果てた頃にジャッキーは少女に語りかけた。
 「君が先に眠るまで勿体ないから起きてる」
 「明日も仕事なんじゃないの?」
 「そう。明日の仕事とか、たぶん辛いんだけど」
 「あは。あたしも、あなたが眠るまで起きてる」
 「ここまま起きているなら、二人の夢を語ろうか」
 そのまま夜中まで少女と語り合い、大好きな音楽を聴きながら、いつの間にか眠る。
 「ああ、何にもしなくても朝が来る!」
 My Babe
 満足するほど抱きしめ合った夜とか、当たり前のようだけど幸せ感じるんだ。

 目が覚めたら風登りをして体調を整え、映画館に赴く。
 ジャッキーは林原めぐみの声を判別できなくなっている自分に唖然としていた。卒業から四年、戦うキバもツメもなくしてしまったのか?
 それにしてもジャッキーの涙腺は弛みっぱなし。パーマンのオープニングテーマを聴くだけで涙がキラリ。藤子作品への信仰に近い愛は王道のシーケンスに涙を誘われ号泣。顔がぼろぼろだ。
 「そいつがファンの証明なんだとでも思っているんだろう?」
 本当はそんなこと微塵にも思っていないくせに自衛のためあらゆる角度の論理で武装するジャッキー、疲れないか?
 上映が終わると、ジャッキーは売店で2000円近くグッズを買い込んだ。
 「大人になった、っていうことさ」
 以前はパンフレットしか買わなかったのにね、ジャッキー。
 ドラえもんのガシャポンを回しながら、パンフにスタンプを押しながら。
 涙が、こぼれてはずっと頬を伝う。

 「ぞね、彼女ができたらしいね?」
 “ぞね”というのはジャッキーのあだ名だ。大曽根中学を出ているから。本名はJacky in the park。
 「ん。そうなの」素っ気なくジャッキーは返答する。
 「違うの?聞いたよ、向陽の、一つ年下の女の子と付き合い始めたって。みんなでお祝いしてたのに」
 向陽高校はジャッキーの母校、そこまで聞いて、ピンと来た。
 「それ、メアリー・シェリーのことだろう」
 「うん。そう。付き合っているの?」
 ジャッキーは溜息をついた。
 「なんとも言えない。そいつはこれから、二人で相談して決めることだからね」

 ファミレスでのプチ同窓会は続く。
 バイアットはジャッキーを愛していた。それでジャッキーと懇意だったセリア・リーズに嫉妬をしたのかもしれない。
 ところで、ドーデはメアリー・シェリーを愛していて、それでメアリー・シェリーと懇意だったジャッキーに嫉妬した。
 そしてひょっとしたら、ジャッキーはメアリー・シェリーを愛していて、…
 「はは」ジャッキーは笑った。
 「どうしたの?」セリア・リーズが訝しげにたずねる。
 「なんでもない」
 それで彼らのノスタルジックな夜は深々と更けていった。

 帰宅するとまたも深夜。それでもジャッキーは朝方までドラゴンボール(ブウ編)を読みながらエリオットとメールの応酬。
 「素敵な子だよ。」

 ジャッキーは帰り支度を整え、登山。公園、ファミレス、モームを呼びだして、しりとりを繰り返し10時間ほど居座って、それから朝までカラオケを。選曲と旋律によって織りなされるその淡い空間の景色は、「古いです。」「名曲です。」の交差点で痛烈に映し出され、不安と興奮が交錯して鳩尾に喰い込んだ彼女の素敵さ加減ともどかしさに、ジャッキー思わず弾け飛ぶ。

 「ガガガッ ガガガッ ガオガイガー! ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー!」

 朝になってモームに見送られながら電車に飛び乗る。眠い。間違えて岡崎で降りたり、間違えて代々木で降りたり。

 ジャッキーは眠気を殺してそのまま大学へ行き、オースティンとラーメンを食べて、家に帰って、1時間と少しだけ寝て、吉祥寺の白木屋でベッカムやタイタニックや熱燗を飲んで、井の頭公園で花見をして、酒を飲んで大声で歌を歌いわさび煎餅を食べて、木に高く登って、その模様をフジテレビに撮られて、もしかしたらテレビに出たかも知れなくて、隣で飲んでいたギター持った歌うたい連中と仲良くなって、コントとか見せられて、また徹夜でカラオケをする。

 「ガガガッ ガガガッ ガオガイガー! ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー!」

 誰とカラオケに行っても歌う曲って。陶酔して。黒夢の如く。
 間奏開けの「ガガガッ ガガガッ ガオガイガー ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー ガガガッ ガガガッ ガオガイガー ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー」がジャッキーは堪らなく好きだ。大好きだ。「良い。良すぎる」今回もまた、イッてしまった。イッてしまったで早漏。

 そしてカラオケ明けはいつもファミレス。
 ジャッキーは「ココスのトリオプレート」を注文した。「ココスの」を強調して頼んだら、何度も聞き返された。

【第28話 バードスキン・フルートゥ/セックス・イン・ザ・リスペクトフル・ランゲージ  2004.3.23(火)】

 BIRD SKIN FRUITの名トラック『SEX IN THE RESPECTFUL LANGUAGE』が流れるお昼の教室。ジャッキーは一人沈んでいた。どうしようもないくらいの笑顔で。どうしようもないから、笑顔で。
 「どうしたんだよ、浮かない顔して」
 塞ぎ込んだジャッキーは友人の何気ない一言が嬉しかった。
 「君だけだよ、僕のこの、翳りきった笑顔を気にかけてくれるのは」
 友人は笑って、
 「なにいってるんだい、僕たち、友人じゃないか」
 「ありがとう!」
 「そうだ。翌日はひとつ気分転換に、黒夢のコンサートにでも出向かないか」


 といったぼっさり具合で黒夢のコンサートに出向いて来るため第29話は3月27日に更新予定です。

【第27話 読者は踊る、されど進まず  2004.3.22(月)】

 斉藤美奈子の論調が、いつも気にくわない。そう感じながら
 「書けない、爆発。」
 ジャッキーは高校生の頃に書いた文字列の断片を見つめていた。



幻想的に生きてくれ
幻想的に
惑いがちな文章で僕を殺してくれ
君は死なないでくれ
幻想的に
幻想的に生きてくれ
幻想的に生きてくれまいか
惑いがちな格好で崖の上に立ってくれ
長い長い
性器の形をした純金のノベボーで
三百メートル彼方から
押してあげる
そして
そして
華麗に
華麗に
華麗にも君は
這い上がり
笑顔を見せて
キリストがしたように
トルストイが叫ぶかのように
大復活を遂げてみて



ああ
ああああ


いくよ
いく
いく

いい
ああ

キスをして
ねえキスをして僕に
三千メートル向こうから
世紀のアイドルたちがそうしたように
さあキスをして唇を投げて
ちぎって
ちぎって
ちぎって
ちぎって
その指で
たよやかにちぎって
そして投げて
くちびるを君の
僕にその
くちびるを君の
僕にそれを
ちぎって
ちぎって
ちぎって投げてそして僕は受け取って
投げて
ちぎって
ちぎってはなげて
ちぎってはなげて
ちぎってはなげ
ちぎってはなげ
ちぎって鼻毛

遠くから眺めて
遙か彼方から
僕だけを見て
その視力で
その
生まれたときから
見えている目で
さあ
さあ
さあ見て
さあ見て僕を見て今
どう
どうなの
どうなの僕は
僕の姿態は
肢体は
死体はどうなの
ああああ
見られてる
僕が君に
君は僕を見てる
あああああああ
死にたい
死にたい
殺してくれ
立つから
立つから崖の上にそして
突き落として
突き落として速く
あなたの性器の形をした純金のノベボーで
男になって
今だけ男性に
男性器を得て
そして投げて
ちぎって
くちびるだけで受け止めて僕を素速くねえ
僕は君と
セックスがしたい
それだけなんだよ
したい
したい

はじめの一歩は殺し合うことから
それから
復活しよう
蘇ろう
ともに
崖の下から笑顔で這い上がり
永遠の愛を誓おう

当たり前かもしれないけど
僕は君を
ああ
ああ
ああああ
抱きしめたい
腐るまで
異臭をも
腐敗をも取り込んで
受け入れて愛す
僕は君を抱きしめたい
全てを
腐った内蔵すらも僕は君のために
売るし

どうしたら僕は
君を
ああ

どうかしてるよ
今日の僕は

明日にはまた
普通
目指すから

SSMは
ソフトエスエムの
略だから

モビルスーツと
モビルスーツと抱き合って君は
モビルスーツに犯されて
ビームサーベルをつっこんだ君を
モビルスーツが吸い込んで
僕はそれを見て
冷静

動物のように
あああピューマであるかのように
知らないふりをして



ゲルゲルゲルゲル
ゲルゲルゲルゲル
グ グ グ グ

剥がれ落ちていく
スプウンから
小さな小さな
銀の破片
それはまるで僕の胃の中
イタイイタイ病を
思い出させるように
remind me!
itai itai byou

そして崩れ落ちていく
新潟の彼の地で
今なお
苦しみ
そして誰にも
知られることのない

僕の目の前で実にたくさんの小さな小さな銀のかけらが
夕立のように降り注ぐ
核戦争のように
内閣がいきり立っている
そして僕はヨーグルトを食べる
両腕を銀だらけにしながら
いぶし銀と銀シャリの間を駆け抜けていく弟の姿に
射殺されたユダヤ人を重ねてそして
目を閉じると
スプウンからこぼれる
限りなく銀に近づいたヨーク



 このエネルギー。なんなんだ。畜生。
 …年をとったんだな。
 ふとそんなことを思い、ジャッキーはファミレスへ向かった。
 「一人でファミレスだなんてね、年をとったんだよ」
 独り言だって同じ事だな、とジャッキーは口の中で呟いた。

 ジャッキーはまず、岡田淳の『扉のむこうの物語』を読んだ。

 15分ほど呆けたのち(普段は読書後に休んだりしない。間髪入れず次の本へ進む)、お祝いにハンバーグをたのんで、頬張って、あたりにもう例のうるさいけれどもセックスアピール満点の女子中学生集団がいないことに改めて気づきながら、大槻ケンヂの『新興宗教オモイデ教』を開く。あれ。おかしいな。
 「読書ってこんなに楽しかったか?」
 ジャッキーは『オモイデ教』を読み終え、閉じると、ぽかあんとした。
 斉藤美奈子の『読者は踊る』を読んでみた。すらすらと。

 小学生のジャッキーも、『扉のむこうの物語』を読んだ。「物語を書きたい。書かなければ」と思った。
 中学生のジャッキーも、高校生のジャッキーも、いつだってそれを読むたび、そうだった。
 (それは『扉』が「物語をつくる物語」だから、という単純な理由でもあったが)
 大学生のジャッキーは何思う?

 「あースッカラカンの脳味噌抱えて僕に何ができる?」
 ペシミスティック?そんなわけない。
 「スッカラカンのカラカラ感がカイカンのオーケストラ」
 無意味なせりふに意味を持たせるのは妄想力の賜。ジャッキーは幸せだった。とにかく。

【第26話 二人オナニー  2004.3.21(日)】

 19歳の性欲、壮絶なバトルを繰り広げる。対戦相手は理性と未来。葛藤。
 仕方ないから各自でオナニーに専念。二人オナニー。

 1メートルずつ離れて、二人オナニー
 密着しながら、二人オナニー

 同じことさ。


 「脱げよ」
 彼女は脱いだ。
 「着ろ」
 彼女は着た。
 「脱げよ」
 彼女は脱いだ。
 「着ろ」
 彼女は着た。
 「脱げよ」
 彼女は脱いだ。
 「着ろ」
 彼女は着た。
 「脱げよ」
 彼女は脱いだ。
 「着ろ」
 彼女は着た。
 ジャッキーと彼女との関係、そしてその時のやりとりは、おおよそこのようなものだった。

 「そう。千日手なんだ」
 駅まで送って、呟いた。

【第25話 郵便受けのために生まれたんじゃないぜ  2004.3.20(土)】

 パン全品15%オフの店で、賞味期限が近いため65円で売られている定価88円のパンがレジスターの前に置かれる。74円、と表示される。何かがおかしい。憤慨して顔を上げると容姿端麗な少女がにっこり。練馬区富士見台のディスカウントショップでジャッキーは恋に落ちた。常連の彼が初めて見る顔なのだから新しいバイトだろう。ジャッキーは惚けたまま74円を支払う。店を出る。張り紙を見る。時給850円、なんて好条件。

【第24話 今更カスケード  2004.3.19(金)】

 少年はグリグリ眼鏡を拾って帰宅をした。【キテレツ大百科】と命名されたパーソナル・コンピュータの前に座り、スイッチをつける。“Entertainment Zone”にアクセス。いつも嘘っぱちの会話が繰り広げられているはずのそのHPが、真っ白。何もない。ただ白い。ドラッグしてみる。でも白い。なんだろう。閉鎖かな。少年は首を傾げ、【キテレツ大百科】を見つめる。何を考えたかおもむろにグリグリ眼鏡をかけてみる。そうしたら白い画面に文字が浮き出てきた。



 ○月×日
  今日はカスケードを聴いた。
  今更カスケードだなんて。
  今更カスケード。
  別になんてことない言葉だけど
  勝訴ストリップとか
  色々アクウェイタンスとか
  そういうリズムで捉えると
  今更カスケード
  なんかいい。
  勝訴ストリップ
  今更カスケード
  今更カスケード
  勝訴ストリップ
  兵藤ユキ


 ○月△日
  今日はT-BOLANを聴いた。
  今更T-BOLANだなんて。
  今更ティーボラン。
  だめだなどれでも語呂がよく聞こえる。
  今更ってすごいな。
  T-BOLANのシングルズを聴いていたら
  最後の曲が終わった後に空白があって
  何分か待ってたら
  おまけ曲があったよ。T-BOLANのくせに。
  なんか受けたよ。
  じれったい
  お前の愛が
  うざったいほど痛いよ
  名言!


 ○月□日
  今更BUCK-TICK。
  やった語呂悪め。勝った。
  「CD買った」
  「なんてCD?」
  「殺シノ調ベ」
  「えっ聖鬼魔II?マリスミゼル?」


 ○月互角日
  泣かないで僕のマリア生まれつき器用になれない
  今更黒夢。
  四字熟語。
  四字熟語自体が四字熟語だというこの
  ライオンやトラやウサギや他の現実の動物たちと相並んで「動物」なるものが闊歩しているかのような
  商品世界における貨幣の存在と同じようなこの
  それによって全ての四字熟語を一括りにする一般的な定義の尺度でありながら、
  同時にそれらの四字熟語とともにそれ自身四文字の熟語になるという二重の存在であるかのような
  この
  ああああ
  僕は自殺をするよ。はいした。ピブー。


 ○月ハブステップ日
  自殺をする自分と自殺をする自分を客観的に見つめている自分。
  死んだ自分と死んだ自分を描写する自分。
  それによって全ての自分を描写する絶対的な世界の尺度でありながら、
  同時にそれらの自分たちとともに自分というもののうちの一つになるという二重の存在であるかのような
  [原稿はここで断絶している…]



 それはジャール・ジャルクスという人の日記だった。死後、ジャンゲルスという人が編集したらしい。彼はグリグリ眼鏡を投げ捨てた。生き物の中身を覗き込むこともなしに、世界の矛盾の何もかもを知ってしまったのだ。もう少年ではない。

【第23話 「お父さんもお母さんも刑務所にいってて留守なの」  2004.3.18(木)】

  君の
  オシャリティ溢るるファッショナブル・ファッション
  ヌクモリティ高げなパッショナブル・パッション
  ファッショ
  ナチス
  ジー・エイチ・キュー
  (It's all the same!)×4


 ジャッキーはギターをかき鳴らし唄う。横隔膜をビブラートさせて。RCサクセションのヴォーカルみたいな声で。


 「どんなギターかって?もちろんエア・ギターさ。こうやって、ほら。エア・タバコを吸いながらね」
 「架空のギターと妄想のタバコ。思春期に見る夢と同じはずだろう?」
 「横隔膜と処女膜との違いがワカリマセン。そこのおねいさんテルミー声はいらない身体でもう」
 「横隔膜というのはどこなんだ?ビブラートさせるとどんな音が出るっていうんだ?」
 「ファッショもナチスもGHQも、同じことさ。みんな同じ」


 ジャッキーはブルースを唄いながらギターの中にインサート→シェイキン→イジェキュレイトすると投げ捨てた。
 音を立てて割れた。そうなんだ。孕ませるのが怖かったら、殺して仕舞え。十月以内に。

【第22話 すかんち usaknihc  2004.3.17(水)】

 電車の中。ジャッキーは笑いを押し殺す。ぎりぎりのところで爆笑を免れた、神コロされた笑い。それを失笑と呼んでも嘲りと呼んでも構わない。早い話が眼前で繰り広げられるどっかの高校の男子バレー部連中の会話だ。優先席を占領したその四人組を便宜上それぞれA~Dの記号で表す。


 キャつらはどうやらしりとりをしている模様。
 ジャッキーはそれをじっと見つめている。

A「とんこつスープ。」
B「ぷ…」
C「プロレスとか言うなよ」
D「プリンなら言ってもいいよ」

 以下、CとDは思いつく限りの「ぷ…」を並べ立てる。質・量ともにお粗末。ジャッキーはもどかしく感じながら自分でも思いつく限りの「ぷ…」を考えてみる。プププランド。プーマ。ぷりん帝国。プライマル。プッチモニ。プッカ。プンクトゥム。プラプラ様。
 CとDが基本的な「ぷ…」をずんずん列挙していくのでBは困惑してしまい、苦し紛れに絞り出す。

B「プル」

 ジャッキーは一時思考停止した。
 ガンダムファンか?機動戦士ガンダムZZに出てくるあのプルか?なんて反社会的な奴なんだ。こんなことでは世の中渡って行けまい。

A「なんだよそれ」

 やっぱり。ジャッキーは心配をしている。説明したが最後Bくんは今後オタクのレッテルを貼られたままトスを上げアタックを乞わねばならない。

B「いや、英語で。ドアのとことかに書いてあるじゃん」

 PULL。
 なるほど、ガンダムネタではなかったのだ。ジャッキーはホッと胸をなで下ろす。

C「おいおい英単語とかありかよ」
D「何でもアリになっちゃうだろ」
B「日本で普通に使われてんだからいいじゃん」
C「ってかプルってどういう意味だっけ?」
A「アレだろ、“押す”って意味だ」

pull
━━ vt. 引く; (歯などを)引き抜く ((up)); 引いて…にする; (花・果実などを)つむ, もぐ; 引裂く; (鳥の)毛をむしる; (車などを)引いて動かす; (ボートを)こぐ, こいで動かす; (何本かのオールを)備え付けている; (筋肉を)ひっぱって痛める; (引力が)引き付ける; (支持・関心を)得る; 〔話〕 (魅力が)引き寄せる; 〔俗〕 (性的に)引きつける; 〔話〕 行う; 〔話〕 (犯罪・いたずらを)やる; 〔話〕 (拳銃などを)かまえる; 【印】手刷りにする; (校正刷りを)刷る; 【ゴルフ・クリケット・野】(ボールを)ひっぱって打つ; 【競馬】(勝たないように)馬を制する; 【ボクシング】(手)加減する; (樽から)(ある量のビールを)出す.
━━ vi. 引く, ひっぱる ((at, on)); ひっぱられる; (ボートが)こがれる, ボートをこぐ ((away, for, out)); 一気に飲む ((at)); (タバコを)吸う ((at)); (馬が)いうことをきかない; 車を寄せる[方向を変える], (車がわきへ)寄る.

 ジャッキーは再び心配をしている。間違いなくAくんは今後アーパーのレッテルを貼られたままブロックを作りトスを待たねばならない。

C「あれ、そうだっけ?」
B「うん。たぶんそう」

 Bくん!ジャッキーはスクリームな表情を隠しきることができなかった。
 PULLが“押す”だったらコンビニとかで困っちゃうじゃないか!裏にはPUSHと書いてあるのだから両側から押し合ったりなんかして、ともすれば大きな喧嘩に発展するかもしれない。頑固なおやじさんは怒りを露わにするかもしれない。「コラ君ここにちゃんとPULLと書いてあるのだからちゃんと押して出なさい」アア。

D「え、“押す”ってプッシュじゃないの?」

push
━━ vt. 押す; 押し動かす; 押して…にする; ((~ oneselfで)) (ある姿勢を)さっととる; 突き出す ((out)); 圧迫する, しいる ((for)); 【コンピュータ】(データを)stackヘ入れる; 追い込む ((to)); (人に)強要して…させる ((to do; into doing)); 押し進める; 追求する; 後援する; 〔話〕 売り込む, 押し付ける; 〔俗〕 (麻薬を)密売する; 〔話〕 ((進行形で)) (年齢・数が)近づく.
━━ vi. 押す ((at, against, on)); 押し進む ((on)); 突き出ている, (道路などが)延びる, (考えなどが)広がる; どんどんやる, 奮闘する; 強く要求する ((for)).

 ジャッキーはホッと胸をなで下ろす。さすがだDくん。

A「いや、プルはなんか“押し続ける”みたいな意味なんだよ」
D「あ、そうなんだ」

 Dくん。

C「じゃあまあ、いいんじゃないの。えーと、る、る、る…」

 ジャッキーはうち寄せるTSUNAMICな爆笑を押し殺さんがため目に涙ため奮闘していた。それを失笑と呼んでも嘲りと呼んでも構わない。


 家に帰ると、ジャッキーは高校二年生の女の子に電話をかけた。「ねえねえ面白い話があるんだよゲハハハ今日さあ電車ん中でアホアホなハイスクールスツーデンツ目撃ドキュソしちゃってもー。アホホホ、オホホホ、げははのは。あのさあのさPULLってどういう意味かわかる?」「え?わかんない。“押す”?」HEY, JAPON, WHERE ARE YOU GOING?

 過去ログ  1~21  22~33  34~66  TOP