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11月23日

2004(火) く蛹つよし

 22日の深夜26:00頃、西原という男の番号から急に着信があった。

 電話をとると、うめき声。



 「ウウウー ウウウウー」



 「死ねばいいんダァアア」



 「うんこー うんこー」



 と、いうわけで呼び出されて。
 池袋の某氏宅へ。
 数十分後、池袋に到着。
 が、家がわからなくなってしまった。

 「ごめん、どこかわかんなくなっちゃった」
 「ハァ?今からそこ行くから待ってろ」

 ぼーっと待っていると、どこからともなく声が。



 「ジャァアアッキーーー!!!
 どぅこーーーー!!!
 ジュワァアッッツキィイイイ!!!(大声)」




 僕は死ねと呟きました。



 彼は間もなく僕に気づき、ヨタヨタとタテモノの中に入っていった。
 僕もそれに続く。
 部屋に入ると、洗濯物を投げつけられた。
 舞うシャツやパンツ。



 「グヒグヒギュヒグヒヒヒイイイ」



 僕は再度死ねと呟きました。



 その風呂なしトイレつきワンルームの部屋には僕や彼を含め5人の大学生が犇めいていました。
 皆酒を飲み冷静さを欠いていましたが流石に人間としての理性は保っていました。
 一人そう彼を除いては。

 僕は持参した日本酒を水割りにして飲みました。
 おつまみのぽてちを頂きました。
 彼はゲロを吐きました。

 彼はゲロのついた口元を、僕の服で拭きました。



 僕は遂に死ねと叫びました。



 そして思い切りグーで殴りました。
 彼は「お前は容赦というものを知らないのか」と言いました。

 僕は「黙れ。うんこめ」と彼に言いました。
 すると同席したある氏が、「彼とうんこを一緒にするとうんこに失礼だよ」と言いました。
 僕は深く反省をしました。
 彼がうんこ以下であるということを忘れていたのです。


 叫び、吐き、叫び、吐く。
 始終がこの繰り返しでした。
 本当に誰もが彼に死んでもらいたいと思っていましたし、実際皆がそれを口にしていました。

 また、彼は嘔吐するとき以外は常に、下着の中に右手を突っ込んでいました。
 そして動かしていました。
 聞けば、僕が来る前には、彼はある女の子の名前を叫びながら、狭い部屋に転げ、下着の中に右手を突っ込み、動かしていたというのです。某氏がその模様を携帯電話のビデオで記録していたのでそれを僕は見ましたが、とてもおぞましいものでした。
 どうして彼は死なないのかと強く思いました。




 しかし僕らは彼の術中にまんまとはまっているのです。
 僕らが彼を「死ね」と罵り、殴り、蔑み、うんこ以下の扱いをすることで、彼は達するのです。
 そう仕向けているのは他ならない彼自身なのです。
 彼はうんこ以下の扱いを受けることが気持ちよくて仕方がないのです。
 それだけが彼のレーゾンデートルだということです。


 つまりこういうことです。
 僕がこのように彼を侮蔑し見下した文章を書くことこそが、彼の至福だということなのです。
 手の上なのです。
 でも僕はこれを記述しなくてはならないのです。
 彼が死ねばいいという事実は決して歪みはしないからです。






 そのあとは、「メタうんこってメタ言語みたいなもんだよね」といった話題で盛り上がりました。






 やがて彼は眠りに就きました。覚醒していた僕と某氏はいろいろの話をしました。
 ドラえもんの声優が代わったこと。僕がそのことを全面的に肯定すること。帰納法のこと。演繹法のこと。ヘーゲルの弁証法のこと。アナロジーについてのこと。それらが日常でどのように機能しているかということ。マルクスのこと。「疎外」のこと。ロップルくんのこと、チャミーのこと…………。そして、クレムのこと。遠い遠い……、望遠鏡にもうつらないほど遠いコーヤコーヤ星での毎日を……、思いだすんだ。



 やがて彼は覚醒し、2ちゃんねるやアニメーションや漫画について訳の分からない議論をする羽目になりました。
 6時を過ぎていました。
 そのうちに僕らは眠りに就きます。







 昼過ぎに僕らは起床します。僕は13:00から稽古があったので失礼しました。
 彼らはいつもの通り、酷く沈痛な面もちでした。
 みんな死ねばいい。とみんなが思っているのです。

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