少年三遷史   作:〇〇〇ja!(2001年7月27日初演)


 真っ暗。
 雨が降り始める。
 だんだん強くなる。
 明るくなって、鈴村と俊太。
 それでも暗い雰囲気の舞台。
 
鈴村   雨が強くなってきたなぁ。
俊太   ・・・・・・。
 
 ごろごろごろごろ・・・
 
鈴村   雷まで。
      急にどうしたんだろうな。天気予報なんて当てにならんもんだ。
      そろそろ帰ったほうがいい。
      まぁ、このことはもう解決したということにしておく、
      幸い今は夏休みだし、みんなもすぐに忘れるだろう。
俊太   ・・・何度も言うけど、
      俺なんにもやってない。
鈴村   わかったよ。お前の名前は出さないから。
俊太   信じてよ!俺・・・
鈴村   まだそんなこと言っているのか!
俊太   だって、先生は全然俺の言うこと
鈴村   先生はお前のためを思っていってるんだ!
      中学三年の大事なときなんだぞ!
      少しでも安全に解決させてやろうという
      先生の気持ちがどうしてわからないんだ!
俊太   そんなの勝手だ!
      先生はただ手軽に解決したいだけじゃないか!
鈴村   これがお前にとって一番良い方法なんだ!
俊太   俺がやったって証拠はないだろ!?
鈴村   いい加減に認めろ!
     いつまで突っ張ってるんだ!
俊太   先生はいつもそうやって
     何でもかんでも決めつける!
鈴村   お前がやったんだろうが!!
俊太   違うよ!
鈴村   先生は知ってるんだぞ!
俊太   嘘吐き!
鈴村   とにかくお前は不良から足を洗え!
 
 会話の途中から、
 権藤と哲也の会話がかぶり、ミシミシっという音が聞こえる。
 
権藤   テツ!
      お前はまだ子どもだ、1人じゃ何もわからんし、
      何もできんだろう。まだガキのうちは、
      おれ達教師の言うことを聞いて、
      何もかもを体に染み付かせなきゃいけないんだ!
哲也   でも、暴力をふるうことはいけないと思います!
権藤   お前らは殴られなければ理解できんのだ!
哲也   そんなことありません!
権藤   体で覚えなければ身につかん!
      その場しのぎの言葉で反省したって
      どうせ次の日には忘れとる!
哲也   だけど!
権藤   とにかく俺に従えばいいんだ!!
 
 ピシャゴローン
 雷が落ちる。停電。
 妙な音がして、再び明転。
 舞台上に鈴村と哲也が増殖。
 雨は止んで、照明など、明るい雰囲気に変わる。
 
鈴村   わかったか、俊太!
権藤   わかったか、テツ!
 
全員   ん?
 
 しばし見つめ合う二組
 
教師達  ど、どうも。
      ・・・あの〜、
      まことに恐縮ではありますが、只今面談中ですので、
      席をお外し願えませんか。
      ・・・えっ?
      いやですから、ここわたしのクラスなんで
      他の教室へ行って下さると非常に有り難いのですが。
      ・・・えぇっ?
      だから、ここはわたしの教室です、他の先生方には他の教室があるでしょう!?
      ・・・・・・。
      とにかく、ここにいられると邪魔なんで出ていって下さい!!

 間。

教師達  ちょっと!

 間。

教師達  あの〜
 
 考える教師達。
 
鈴村   ・・・ちょっと整理しましょうか。
権藤   そうですな。
鈴村   わたしは理科の鈴村です。
権藤   わたしは体育の権藤です。
教師達  3年C組の担任です。
 
 ぷちっ
 
教師達  なんじゃおまえはぁあああ〜!
 
 とっくみあおうとする。
 
生徒達  先生落ち着いて!
教師達  ふぬぬぬぬぬぬ。
 
 取り押さえ。られない。
 一歩も譲らぬ様子で組み合う教師ら。
 実力行使へ。
 
生徒達  落ち着いて、くださいっ!
      せ〜の!
 
 ばきっ。(椅子かなんかでぶん殴る)
 崩れ落ちる2人。
 
哲也   落ち着いた。
俊太   手強い相手だった。
哲也   これでともかく
生徒達  一件落着!(ぐっ)
      いやぁ、気が合うねぇ、ハハハハ。
鈴村   ハハハハじゃない!
      いきなり何をする。
      教師に暴力をふるうとはなんだ!
      どんな育て方をしたらこうなるんだか。
      親の顔が見たいとはこのことだ。
俊太   親だけのせいじゃありませ〜ん。
哲也   半分は学校だと思いま〜す。
鈴村   屁理屈を言うな!
権藤   ・・・おい!お前らそこに並べ、
      気を付けぃ!
 
 気を付ける。鈴村も。
 
権藤   あ、先生はいいですから。

 鈴村、照れながら列を離れる。

権藤   (竹刀を持って)・・・貴様らァ!
      教師に暴力を振るったな・・・
      んなことが許されると思ってんのか?
      ああん?
      自分のしたことがどういうことか、わかってんのか!!
俊太   不可抗力です。
哲也   仕方なかったんです。
俊太   僕らのせいじゃないんです。
哲也   僕たち知らなかったんです。
生徒達  椅子が勝手に暴れたんです・・・(ややハモって)
鈴村   嘘をつけ!
俊太   嘘なんかついてません。
哲也   腕が勝手に動いたんです。
生徒達  本当なんです。
俊太   叱るんなら、あいつらを叱ってください。(椅子に)
権藤   (溜息ついて)
      お前らな・・・
      俺の一番嫌いなものがなんだか知ってるか!
哲也   知りませんっ。
俊太   初対面でありますっ。
権藤   俺はな・・・、
      嘘と言い訳と屁理屈ってのが、大っきらいなんだよ!
 
 ばきばきと竹刀アタック。
 
権藤   わかったか!
鈴村   暴力はいけませんっ。
権藤   なぜです?
鈴村   なぜって・・・
権藤   こうしなければわからん!
      甘やかしたらいつもつけあがるんだ!
鈴村   現代の教育体制では許されないんですよ。
      甘やかして甘やかして甘やかし抜いて、
      その上「ゆとり」だ「自由の尊重」だなどと言って
      最低量の指導で立派な人間を育てろというのが、
      現代の「教育」なんですよ。
哲也   そーだ暴力反対!
男子   反対っ!
 
 再び竹刀アタック。
 
鈴村   先生!
権藤   そりゃあ10年20年先には
      そうなってるかもしれませんな。
      しかし今我々が殴らないで誰がこいつらを殴ってやるんですか?
      痛みも辛さも体験したことがない奴は
      ろくな人間になりませんよ!
鈴村   でも
権藤   デモもストライキもないです。
鈴村   しかし
権藤   シカシもカカシもないです。
鈴村   だって
権藤   ダッテもアサッテもないです。
鈴村   なぜ
権藤   ナゼもハマチもないんです!
      おいっ!わかったかお前ら!
      俺は、お前らの未来のために俺は・・・(熱血)
      もう一度お前らを殴る!
生徒達  ぼうりょくはんた〜いぃ・・・!!!
権藤   口で言っても聞かんなら
      体でわかさせるしかないでしょうが。
鈴村   たとえこいつらが馬鹿で
      馬の耳に念仏で焼け石に水で
      猫に小判で鬼に金棒で豚に真珠だったとしても、
      それでも説得するのが教師です!
      そういう仕事なんですよ。
      世間がそうしろと言う。それにそれが、
      文部省の方針でもあるんですから。
俊太   は〜い。(挙手)
鈴村   なんですか、ハイ谷川俊太くん。
      生徒の意見も積極的に・・・
俊太   じゃあ先生は文部省が死ねと言ったら死ぬんですか?
哲也   文部省がブタと結婚しろと言ったらするんですか〜。
俊太   文部省が靴下を食べろと言ったら食べるんですか〜。
哲也   文部省が河内音頭を踊れと言ったら踊るんですか〜。
俊太   文部省が・・・
鈴村   そういう問題じゃないだろうっ!
      そういう話をしてるんじゃない。
      今はどういうときだ?
      人が真面目な話をしている時にどうして下らない話で茶化すんだ。
      そういうのは世間では通用しない。
      もう中学3年生だろう、
      どうしていつまでたってもわからないんだ。
      社会に出たときにだな、例えば会社で大事な会議をしているときに、
      ちょっとおもしろい話が思いついたからと言って
      ついつい口に出してみろ。
      たちまち首が吹っ飛ぶんだ。
      大黒柱のお前が失業して、家庭崩壊、家族離散、一家心中・・・人生真っ暗だな。
      それにお前らももうすぐ受験だろう、
      高校受験には面接がある。面接の時にもそんな態度で臨むのか?
      その高校には間違いなく、落っこちるな。
      いい高校に入れないといい大学に行けない、ろくな大人にならんのだ。
      それで人生全てを棒に振ることになるんだぞ。わかったか?
      な、わかっただろ?
生徒達  わかりました〜
権藤   わかっちゃいませんよこいつらは!(ばしっ)
      この顔を見てください、これで反省してるように見えますか?
      やっぱり殴るのが一番です!
生徒達  ぞ〜っ。
鈴村   いいえ、いくら馬鹿でも殴るのはいけません。
      そんな思想は、とっくの昔に消え失せました。
権藤   水戸五中事件裁判の結果をご存知でしょう?
      生徒への愛の鞭は刑法上法令による正当行為だと
      認められたじゃありませんか。
鈴村   水戸五中事件というと・・・
俊太   なんだそれ。
哲也   知らないの?
権藤   ついこないだじゃないですか、
      あの教師は無罪になりました。
      あんなことでいちいち処分されてたらたまったもんじゃないですな。
哲也   でも生徒は死んだよ・・・。
俊太   体罰で殺したのか?
権藤   体罰が原因じゃない!
鈴村   あの事件ですか!
      確か昔、体罰を受けた生徒が数日後死亡したとして
      起こされた裁判があった・・・。
権藤   知ってらっしゃるじゃないですか。。
鈴村   しかし20年も前の事件です、
      時代は変わって、今は21世紀なんですよ。
1981  21世紀?
鈴村   そうです。既に新しい時代は始まっています。
      文部省も文部科学省と名前を変え、21世紀型新教育への歩みを着実に進めています。
      権藤先生、あなたの考えは古い!
権藤   あなたこそ変です。
      教育界の現状を把握していませんよ。文部科学省なんて聞いたこともない。
      だいたい21世紀なんてまだまだ先じゃないですか。
2001  はい?
権藤   今が1981年だから・・・あと20年。
鈴村   ・・・・・・。(考)
権藤   どうしました?
鈴村   ・・・ちょっと良く聞こえなかったので
      もう一度お願いできますか。
権藤   はぁ?
哲也   つまり今年、昭和56年は
      西暦にして1981年だから・・・
鈴村   俊太!
俊太   はい!
鈴村   携帯はあるか?
俊太   あります!
鈴村   精神病院に電話だ!
俊太   了解!
権藤   やっと自分がおかしいことに気付いたようですな。
鈴村   あなた方が行くんですよ。
権藤   私は正常だ!
俊太   先生!
鈴村   なんだ?
俊太   番号がわかりません。
鈴村   だったら119でも117でもなんでもいい!
哲也   それ以前にそんなおもちゃで電話がかかるわけないし。
俊太   ゲッ、お前携帯しらねぇの?
      何処の国から引っ越して来たんだよ。
鈴村   可哀相に、とにかく病院に行きなさい。
権藤   こっちの台詞だ!
鈴村   なんですと!
権藤   なんだぁ!?
教師達  ふぬぬぬぬぬぬ。(とっくむ)
生徒達  ハイ先生、落ち着いて☆(ぐわし!)←椅子
教師達  ぐふぁ。(崩)
俊太   落ち着きましょう。
哲也   いい大人なんだから。
俊太   ハイハイじゃあ整理しましょうか。
      ・・・って気絶してんの?(つんつん)
哲也   なにがなんだか・・・
俊太   まあいいや。おれ俊太ね。
哲也   ああ、おれテツ。
俊太   なぁお前本気で今が昭和何年だとか言ってんの?
      いま平成だぜ、平成?
哲也   なんだよ平成って。
俊太   じゃあ総理大臣は?
哲也   鈴木善幸。
俊太   小泉純一郎だよ。
哲也   最近の若者はナニ族?
俊太   親指族?
哲也   クリスタル族。
俊太   はぁ?
哲也   田中康夫の・・・
俊太   名刺折り曲げられた長野県知事だろ?
哲也   若者のカリスマだよ。
俊太   あのおっさんが?ウッソォ!
哲也   何にも知らないね。
俊太   お前こそ。
      10円のキャラメル10個買ったらいくらになる?
哲也   100円でしょ。
俊太   消費税もしらねぇのか。
哲也   なにそれ。
俊太   今年の流行語はなんだと思う?
哲也   「んちゃ!」とか。
俊太   ・・・?
哲也   アラレ語。
俊太   いや、小泉首相の
      「痛みに耐えて、よく頑張った、感動した!」とかさ。
哲也   誰、小泉って。
俊太   支持率80%以上だぜ?
哲也   そんな異常な首相がいるもんか。
俊太   う〜ん。お前宇宙から来たのか?アレか、火星人か!?
哲也   そっちこそ海底人とか地底人とか天上人とかじゃない?
俊太   まさか。
      あるいは・・・
生徒達  タイムスリップとか。
鈴村   (むくり)そんな非科学的なことが
      あるわけなかろうが!
権藤   (むくり)そうだ、おおかた出任せを言ってるんだろう、
      未来のことならなんと言ってもわからんからな!
俊太   あれ、聞いてた?
鈴村   なんだか起きあがる瞬間がつかめなくてな。
権藤   鈴村先生が起きあがってくれなかったら
      どうなっていたことかわからん。
哲也   もしかしたら俊太たちは
      未来からタイムスリップしてきたんじゃない?
権藤   そんな馬鹿な話があるか!
鈴村   だとしても、タイムスリップしてきたのはそっちだ。
      アインシュタインは相対性理論で過去へのタイムスリップは不可能だと言っている。
俊太   さすがは理科教師。
権藤   なにやら難しいことを・・・
      体育大学出身者を馬鹿にしているな!?
      よしんばタイムスリップが生じたとしても、ここは1981年だ、間違いない!
鈴村   根拠は?
権藤   ・・・体育教師に根拠など必要ありません!
鈴村   ですからアインシュタインがですねぇ、
俊太   ん〜じゃあなにはともあれ「タイムスリップした」
      ってことで結論出していい?
鈴村   それとこれとは話が別だ!
哲也   ・・・誰か別の人に聞いたら早いんじゃないかな。
他3名  それだっ!
円     あ〜、も〜う、遅刻しちゃったぁ!
 
 円ちゃん入場。
 
円    や〜、みんなひさしぶり〜!
      円ちゃんです☆(ハイポーズ)
      ねぇねぇ昨日『101回目のプロポーズ』見た?
      も〜サイコーよ!浅野温子可愛いし
      武田鉄矢も江口洋介もかっこいいし〜。
      東京ラブストーリーも良かったけど、
      やっぱり今、時代はまさに101回目よね〜!
      いや〜でもまさか夏休みにまで遅刻するなんて、
      もうすぐ通算遅刻率が落合の打率を上回っちゃうわよ〜アハハハ。
      って、・・・あれ?
      や〜っぱだ〜れもいないわね、そーよね、もうお昼だもんね〜じゃ〜さようなら〜
権藤   ちょっと待て!
鈴村   ちょっと待て!
俊太   ちょっと待て!
哲也   ちょっと待って!
待てーズ 待てったら!!
円    あ、誰かいた♪
4人    気付けよ・・・
円     いや〜、どうせ誰もいないだろうと思って。
哲也   しかしタイミング良く来るなぁ。
権藤   ところで、君はいつの人だ?
円    え?今の人だけど。
鈴村   聞き方が悪いんですよ。
俊太   えっと、総理大臣は?
円    海部さんじゃない。
旅人たち 海部?
哲也   好きなアイドルは?
円    SMAPの森くん、かわいーの〜!!
権藤   誰だ?
俊太   森なんてSMAPにいたっけ・・・?
鈴村   懐かしいな。
俊太   じゃあさじゃあさ、
      10円のキャラメル10個買ったらいくらになる?
円    ん〜と、ひゃく、ひゃく、・・・さんえんでしょ!
鈴村   消費税が3%?混乱してきた・・・
哲也   単刀直入に聞いた方がはやいんじゃないかな?
旅人たち ずばり今は西暦何年?
円    1991年に決まってるじゃない。
旅人たち 1991年?
      ということはやっぱり・・・
1981  未来の世界に来てしまったんだ〜!
2001  過去の世界に来てしまったんだ〜!
ALL   はぁ?
旅人たち なんだそりゃあ〜!?
 
 タぁ〜イムストぉップぅ。
 
円    ってことはなに?
      あんたたちタイムトラベラー?
権藤   コラ!(ばしっ)
      教師に向かって、しかも初対面のくせに
      「あんたたち」とはなんだ?
鈴村   先生、いきなり体罰は、
円    いた〜い・・・ 
俊太   大丈夫か?
円    ううう、びえ〜ん。えぐえぐ(泣)
哲也   わわわ、泣いちゃった。
俊太   あーあ、いけないんだ〜。
男子生徒 な〜かした、な〜かした、
      せ〜んせ〜にいってやろ。
俊太   (権藤に)先生、権藤先生が女の子を泣かせました!
哲也   もうお嫁にいけないって言ってます。
俊太   責任取って下さい。
権藤   うるさい!ナ〜ニが責任だ。(ばき)
俊太   いってぇ〜・・・
円    うえ〜〜〜んえんえん。
鈴村   コラ、うるさい泣くな!
円    ぐええぇ〜〜〜ん!(クレッシェンド)
哲也   ほ〜らほらほらこれ見てごら〜ん、
      こうでしょ、で、こうでしょ、は〜い。(指芸)
円    (きらきら)すご〜い!
鈴村   単純なヤツだ・・・
権藤   アホらしい。
円    アホって言う方がアホなのよ!
権藤   アホって言う方がアホって言う方がアホなんだ!
      とでも言うと思ったかこのアホタレが!
円    なによ〜ぅ。
俊太   ところで・・・えっと、1991年の君。
円    佐倉まどか。まどかって「円」っていう字を書くの。
      だからあだ名は円ちゃんです☆(ホイポーズ)
      円ちゃんって呼ばなきゃ駄目よ!
哲也   え〜っと、円ちゃんさぁ、今って本当に1991年なの?
権藤   嘘をついとるんじゃないか?
鈴村   さっきの話を盗み聞きでもしてたのかもしれない。
円    あたし嘘言わないもん!
      あんたたちみたいな変な大人とは違うんだもん!べ〜。
俊太   おっ、いいこと言った。
      大人はいつも嘘ばっかりつくんだ。
哲也   ぼくは絶対にそんな大人にはならないぞ。
円    あたしも
俊太   おれも。
子供ら  いぇ〜い!
権藤   ナニ勝手な事をいっとるんだ!
鈴村   そんな甘い考え持ってたって無駄だぞ。
円    無駄じゃないも〜んだ。
鈴村   今は子どもだからわからんかもしれんが、
      大人になったら色んなことがわかってしまうんだ。
      そうしたら今みたいな事は言ってられなくなる。
俊太   でも、先生だって昔は子どもだったんでしょう?
鈴村   そりゃそうだ、けど、
      昔考えてた事なんてもう覚えちゃいないよ。
      ただ、想い出が色褪せて成り下がった、
      単なる記憶があるだけだ。
権藤   そうだな、昔思ってたことなんか、
      全く覚えちゃいないな。
      ただ、修学旅行の旅館で女風呂を覗いただとか、
      その後朝までバケツを持って外に立たされたとか、
      そんな下らない記憶だけが残っとる。今となっては、
      なんで女風呂を覗いたりしたのかわからん。
      見てどうなるってこともないのになぁ。
円    なんか、やだな・・・
俊太   そうだ、女風呂は見てどうするってもんじゃない、
      覗くという行為自体に意義があるんだ!
権藤   なに言ってんだお前。
哲也   先生たちは、そうかもしれないけど・・・
      ぼくは絶対そんな風にはならない!
鈴村   ・・・どうかな。まぁ、じきにわかるよ。
円    お腹すいた〜!(じたばた)
俊太   わっ、なんだよ急に。
円    だってあたし朝からなんにも食べてないの〜!
      死んじゃう〜
権藤   そういえば、今日は特にたくさん殴ったから
      腹が減ったな。
哲也   そう言われると自分も減ってくるのが・・・
俊太   人の常ってやつですな。
鈴村   今はこの状況をなんとかするのが先決だ。
円     ごはんたべた〜い!!
      死ぬ〜・・・。
鈴村   少しくらい我慢しなさい。
俊太   でも先生、こればっかりは仕方ないよ、
哲也   お腹と背中がくっつきそう。
円    明日の朝刊に載るわよ・・・
      「中3女子、校内で餓死」
俊太   「"娘を帰して"遺族の悲痛な叫び」
哲也   「100億万円の賠償金求め、男性2人を起訴」
権藤   ひゃ、100億万円も俺はもっとらんぞ!
円    お腹すいた・・・
鈴村   あ〜、もうわかったわかった。
      権藤先生、私はまだ自分がタイムスリップしたなどとは信じておりません。
      ここはひとつ我々が、学校の外に確かめに行くというのはどうでしょう。
権藤   そのついでにこいつらの飯を買ってきてやるってわけですか。
鈴村   その通りです。
子供ら  ばんざ〜い。
権藤   で、そのお金は誰が出すんです?
鈴村   ワリカンでいきましょう。
権藤   しかし私はお金を持っていません。
鈴村   なぜです!?
権藤   体育教師だからです。
鈴村   そんなの理由になりませんよ。
権藤   このジャージ姿のどこにオサイフがあると思います?
鈴村   ・・・。はい、わかりました。私が出しましょう。
権藤   どうもすいません。
鈴村   お金あるかなぁ、今月厳しいのに・・・
      うちの女房は財布のヒモが堅いんですよ。
権藤   女房ってもんは、
      最初にビシッと教育しなければいけませんよ。
鈴村   とはいっても、21世紀はもう女の時代なんです。
      悲しきカカァ天下。ああ、戦前に生まれたかったぁ〜
円    教師の言うせりふじゃないわね。
鈴村   うるさいな!
俊太   大人は矛盾ば〜っかり。
哲也   そんな大人にはならないぞ!
権藤   大人には大人の辛さってもんがあるんだ、
      先生、尻に敷かれるのは大変だが、男として応援してますよ。
鈴村   余計哀しくなります・・・。
円    早く行って来てよう。
鈴村   クァ〜!こんな所まで来て女に命令されるとは!
俊太   そういうの女性差別とか言わない?
哲也   大人は矛盾ば〜っかり。
鈴村   ク、ク、クゥー!
権藤   ほら、はやく行きましょう、先生。
鈴村   すいません、取り乱しまして・・・
権藤   尻に敷かれることなんか気にしないで・・・
鈴村   あああぁぁぁぁぁ・・・
 
 権藤・鈴村退場。
 
円    あたしコアラのマーチがいいなぁ〜
哲也   ・・・どっと疲れが出た感じ。
俊太   そんな感じ。
円    ね〜ね〜、あたし自己ショーカイしたよ〜。
俊太   あそ〜か、忘れてた。俺、俊太。     
哲也   ぼくはテツでいいよ。
円    あだ名なの?
哲也   うん。本当は哲也。
円    ふ〜ん、しゅんちゃんにてっちゃんね。
俊太   は?そんな呼ばれ方したことないぞ。
哲也   てっちゃん・・・?
円    もう決めちゃったもん!
      ところでしゅんちゃん、
俊太   「俊太」にしてくれよ。なんか気持ち悪い・・・
円    あのメガネの先生はなんて名前?
俊太   鈴村。
円    う〜んと、すずむらすずむらすずむら。難しい〜。
      もー、じゃあ鈴ちゃんで。
      竹刀持った方は?
哲也   権藤。
円    権ちゃんね。
俊太   なんか急に間抜けっぽくなったなぁ。
哲也   あのさ・・・、
円・俊太 ん?
哲也   鈴村って苗字、珍しいかなぁ。
俊太   割とよくあるんじゃねぇの?
円    結構聞くわよ。
哲也   そう。ならいい、気にしないで。
俊太   なんだそりゃ。
哲也   ところでさ、さっきのおもちゃの電話みたいなやつ、
      一体なんなの?
俊太   ん? ああ、コレか?
円    うわ〜っ、なにこのちっちゃい携帯電話〜!
哲也   けいたい、でんわ・・・?
俊太   おー、最新機種だぜ、これ。すげぇだろ。
円    見せて見せて! うわ〜軽〜い。
      NTTのムーバなんて比べもんになんないわっ!
俊太   ムーバってまた古いなぁ。
円    4月に出たばっかりよ?
哲也   おもちゃじゃないの?
俊太   違うよ。ちゃんとかけられるって。見てろよ・・・
      って・・・圏外だ。
円    圏外?
俊太   考えてみりゃ、10年前の世界でこんなもん
     使えるわけないよなぁ・・・
     でも、10年後だったらちゃんと使えるんだぜ!
哲也   へぇ。
円    ねぇねぇここの丸いやつなあに〜?
俊太   ああ、これはカメラ。
円    すご〜いぃ。
哲也   カメラ? さすが未来の電話だねぇ。
      (すげぇやの眼差し)
俊太   ・・・なんだよ人をドラえもんみたいに。
円    うわー、うわー、なんか色ついてるしー!
      画面きれい〜
俊太   へへへ。
      未来の電話は、インターネットだってできちゃうんだぜ。
哲也   インターネット?
俊太   あ〜・・・えっと、パソコンとか使って電話かけて、
      色んな情報を取り込んだり送信したり・・・
円    ああっ! パソコン通信のことね!
俊太   うわ〜古くせ〜 ・・・でもまぁ、そんな感じだよ。
哲也   ・・・僕はその古くさいのすら知らないんだけど・・・
円    え〜知らないの、まじで〜?
哲也   う、うん。
円    ・・・「まじで」って言って。
哲也   え・・・ まじで。
円    まっじっで〜? 
      YO,CHECK IT OUT!(振り付けが重要、発音注意;よーちぇけらー)
男子   ・・・・・・。
      ・・・なんだよそれ。
円    えっ? 今流行ってるのよ。
俊太   こんなんが?
円    こんなんとは失礼ね!
      これでも3日3晩寝ずに考えたんだからね!
哲也   なんだ自分で考えたのか。
俊太   そういうのは「今流行ってる」とか言うのか?
円    言うわよ失礼ね!
哲也   えっと・・・よーてけらー。(違)
円    こうやるのよ。
      YO,CHECK IT OUT!
俊太   YO,CHECK IT OUT!
円    そうそう! 飲み込みが早いわね〜
俊太   そうか?(照)
哲也   え・・・っと?
円    YO,CHECK IT OUT!
男子   YO,CHECK IT OUT!
俊太   なんか楽しくなってきた。
哲也   僕も。
円    まじで〜?
男子   まじで!
マジーズ まっじっで〜?
      YO,CHECK IT OUT!
      ・・・・・・。
俊太   ・・・いいなコレ。
哲也   うん。
円    じゃ〜元の時代でも是非是非流行らせてね!
俊太   おし! そうしよっと。
哲也   僕もそーしよ。
円    まじで?
男子   まじで!
マジーズ まっじっで〜?
      YO,CHECK IT OUT!!
俊太   いや〜、いいねぇ。
哲也   絶対元の時代でも流行るよ。
円    ありがと〜嬉しい。
俊太   元の時代に帰れたら、だけどな〜。
哲也   嫌なこと言わないでよ。
円    う〜ん、元の時代、かぁ。
      ね〜、鈴ちゃんやゴンちゃんのこと、好き?
哲也   だいっきらい!
俊太   同じく。
円    なんで?
俊太   ねちねちうるさいし
哲也   すぐ殴るし
俊太   なんでも最初っから決めつけて、
      勝手な理屈で縛り付けるのが嫌なんだ。
      子どもにも人権はあるっつーの。
哲也   そうそう、わけわかんない理屈こねくりまわして、
      ぼくらの話なんか聞こうともしない。
円    そーね〜。だいったいの
      大人のみなさんがそんな感じよね。
俊太   おー、わかってくれる?
円    もっちろん。
      あたしも先生嫌いだもん。
俊太   やっぱね〜、中学生は9割方そう思ってるだろうな〜
哲也   実際、そうなんだもんね。
円    権ちゃんってどんな先生なの?
哲也   えと・・・
俊太   そーだ、なんでお前さっき怒られてたわけ?
哲也   えっとね・・・ 僕、体罰って大嫌いなんだ。
      だから、そうだねぇ・・・ こんな感じかな。
      例えば誰かが遅刻してきた。
俊太   誰か・・・って、俺? おはよ〜ございま〜す。
哲也   そしたら権藤先生が・・・
円    じゃああたし権ちゃんね?
哲也   うん。物凄い剣幕で怒る。
円    おはようじゃない!
      何時だとおもっとるんだ、もうみんな帰るところだぞ!
俊太   すいません、道路に猫の死体が転がってたんで、
      掃除してたんです。
円・権藤 そんなのが理由になるか!
権藤   この馬鹿野郎!
 
 権藤登場、俊太をブッ叩く。ストップモーション・照明変化。
 円・俊太退場。俊太は声のみ。居ると思って。
 
哲也   先生、今日はただの出校日なんだし、
      ちょっとした遅刻くらいで殴るのは酷いと思います。
権藤   な〜にが酷いだこいつ! 
俊太   待って下さい。遅刻してきたのはボクです、
      殴るなら、ボクを殴って下さい。
権藤   お〜、いい根性だなぁ、男らしいぞ。よぅし、
      その根性に免じて今日は校庭100周!で許してやる。
      ・・・それに比べてお前は何だ!テツ!
      ぐちぐちぐちぐち文句ばっかり並べやがって。
      おれはなぁ、男らしくない奴が大ッ嫌いだ!
      お前はそれでも男か?それとも女の腐った奴か。ええ?どっちなんだ!
哲也   すいません・・・
権藤   すいませんじゃない!
      どっちなんだときいたんだ。質問に答えろ!
俊太   先生!もうやめて下さい。
      元々はボクが悪いんですから・・・
権藤   お前は男らしくて友達思いの良い子だな、
      もう席についていいぞ。
      それに引き替え、テツ!
      教師に口答えしやがって・・・お前は前々からそうなんだ。
      なんにもわかっとらんくせにわけのわからん理屈をこねくりまわして、
      いいか?この世で一番正しいのは大人なんだ。
      ガキのお前らは、親や先生たちの言うことをよ〜く聞いてりゃあいいんだよ。
哲也   でも・・・ぼくは、先生たちが、
      いつも正しいんだとは思いません・・・。
権藤   うるさい!
      ・・・もう、他の奴らは帰って良いぞ。俺はテツと話があるから、さっさと帰れ!
      テツ・・・いいか、お前はまだ子どもなんだ。
      子どもは子どもらしく大人しくしてろ!
哲也   ・・・でも、
権藤   まぁだ言うかぁ〜!
 
 権藤、哲也を竹刀でブッ叩く。ストップモーション・照明変化。
 権藤退場。円・俊太登場。俊太、手を叩く。
 
俊太   本当にこんな先生居るのか?
哲也   酷いだろう?
円    今じゃ考えられない。
俊太   そ〜だな、こりゃ酷ぇよ。
      でも、こっちよかマシだぜ。
      殴るったって竹刀だろ?大けがはしないじゃん。
      こっちは精神的に攻めてくるから。
哲也   そうかなぁ・・・
      俊太はどうして怒られてたの?
俊太   ・・・学校で、金が盗まれたんだよ。
      出校日に、集会やってる時に。俺、悪ガキで、友達も不良ばっかでさ、
      別にヤンキーってわけじゃないんだけど、警察に捕まったこともあるし、
      先生達にも目ぇつけられてたんだ。
円    だから、疑いの矛先がしゅんちゃんに向けられた。
俊太   そーそー。
      で、そんとき俺集会サボって外にいたんだ。
      ・・・それだけではじめっから、
      俺がやったって決めつけて・・・
      俺の言う事なんて聞く気ないんだ。
円    お前がやったんじゃないのか!
俊太   そうそう、そんな感じ。
哲也   ふうん・・・
円    さぁ、正直に言ってくれよ。
俊太   ・・・俺がやったんじゃないよ。
円    お前じゃなきゃ誰だ?
      誰がやったって言うんだ?
俊太   知りません。
円・鈴村 ふざけるな!
鈴村   お前がやったってことはわかってるんだ。
 
 鈴村登場、ストップモーション・照明変化。
 円・哲也退場。
 
俊太   だって本当に知らないもん。
鈴村   嘘をつけ!
俊太   嘘なんか・・・
鈴村   とぼけるんじゃない、
      お前の言うことは信用できん!
      だったらお前は集会の時間何してた?ん?
俊太   校舎裏で、ぼーっとしてました・・・
鈴村   1人でか。どうしてだ。
俊太   いいじゃん、夏の空気を味わいたい年頃なの。
鈴村   本当は教室にいたんじゃないのか。
俊太   違うよ!
      だいたいなんで俺ばっかり疑われんのさ!?
鈴村   日頃の行いが悪いから、そう思われるんだ!
      なぁ、正直に言ってくれよ、
      お金さえ返ってきたら、先生はどうするつもりもない。誰にも言わないよ。
俊太   ・・・・・・。
鈴村   さあ、話してごらん。
俊太   だから俺、なんにもしてないって・・・。
鈴村   本当だな?
俊太   ・・・本当だよ!
鈴村   ふむ・・・これ以上話しても無駄みたいだな。
      よし、じゃあ無かったことにしてやる。
      お金は先生から代わりに出しといてやるよ。
      ひとつ、貸しができたな。
      これに懲りて、もう、悪さするんじゃないぞ。
      このことは先生もう忘れた、明日っからまたすっきりして学校来ような。
      お前も心を入れ替えて・・・
俊太   だから俺じゃねぇっていってるだろ!!
鈴村   わかった、よ〜くわかった。
俊太   なんだよ、それ・・・
鈴村   これを機会にな、不良はやめろ。
      不良の友達とは付き合うな。
俊太   なんで友達のことまで・・・
鈴村   色んな事やってるなぁ、
      万引き、暴力、器物破損・・・
      これからは足を洗えよ。
俊太   俺はなんにもしてないよ。
鈴村   お前はあいつらの友達だろう?
俊太   俺はただ、あいつらと一緒にいるだけで・・・
鈴村   なあ、先生たちは知ってるんだよ。
      何にも誤魔化す必要はない。みんなそうやって大人になっていくんだから。
      突っ張るのも仕方ないさ。
俊太   ・・・・・・。
鈴村   ・・・雨が強くなってきたなぁ。
 
 ストップモーション・照明変化。
 鈴村退場、円・哲也登場。哲也、手を叩く。
 
哲也   へぇ・・・
俊太   そりゃ俺にも悪いところがないとは言えないけどさ、
      何もあんなに・・・。
円    確かにひどいわね。
哲也   それでも、殴られないだけマシだよ。
俊太   そうかぁ〜?
円    ま〜、隣の芝生は青く見えるって事よ。
俊太   そういうお前はどうなんだよ。
円    お前じゃなくて、円ちゃん!
俊太   あ〜はい、円ちゃんの先生はどうなの?
哲也   やっぱ中間だから、あの2人を混ぜたような感じかな。
円    ん〜そうね、そんな感じの先生もいるけど・・・
      バブルがはじけちゃったじゃない、
      景気が悪くなって、収入の安定してる公務員に今人気が集まってるの。
      だから、今後はやる気のない教員が増えると思う。
      い〜かげんな気持ちでお金のためだけに教師をやるっていう人がさ。
哲也   ・・・難しいこと知ってるね。
俊太   ほんと。俺円ちゃんってただのアホかと思った。
円    そうかしら?あたしばかよ。(焦)
俊太   ばか円ちゃん。
円    ばかしゅんちゃんにばかてっちゃん。
哲也   み〜んなばかだ。
円    変なの〜
俊太   いいんだよ、ばかで。
      ばかでいられるのは今のうち。
円    そーかしら。あたしはずっとばかでいるつもり。
哲也   大人になっても??
円    そーよ。
哲也   ばかみたい。
円    だってばかだもん。
哲也   あ〜そっか?
俊太   いっそみんなでばかでいようか?
円    ばか同盟!
哲也   なんか間抜けじゃない?
俊太   バカレンジャーとか
円    あたしばかレッド!
俊太   俺ばかブルー!
哲也   ばかベージュ!
円    三人揃って
バカ   バカレンジャー!
俊太   って・・・ばかだな〜俺たち。
哲也   ばかになるんでしょ?
円    ベージュの言うとおり。
俊太   ベージュ?
      お前な、赤、青ときてベージュはないだろ。
      それに、普通真ん中がレッドだろ?
哲也   ごめんいきなりだったから・・・。
円    いーじゃん、新しいタイプのニューヒーローって事で。
俊太   ヒーロー界に新風を送り込むか。
哲也   ばかのくせに?
円    ばかは世界を救うのよ。
俊太   みんなばかだったら戦争なんか起こらないもんな。
哲也   正義の味方だね。
円    ・・・ふふ、なんか不思議ね〜
俊太   なにが?
円    いつの時代もやっぱり変わらない。
哲也   ああ、子どもはばかで、
俊太   大人は悪者。
哲也   ずっと、変わらないのかな?
円    ・・・さぁ。
俊太   どうだろな。変わって欲しいような、
      変わらないで欲しいような・・・
哲也   ・・・あのさ。僕、誰にも言ってないんだけど、
円    なに?
哲也   ・・・教師になりたいんだ。
      権藤先生、暴力ばっかりでしょ。
      理不尽なことばっかり言うし。
      これからもあんな先生ばっかりだったら、これからの子どもたちも可哀相じゃん。
      俊太たちの頃になっても、
      鈴村・・・みたいな先生はいるだろ?
      せめて自分だけでも、生徒から愛される良い先生になりたいんだ。
      僕ひとりが教育そのものを変えられるとは思わないけど、
      僕みたいな考えを持つ人が1人でも多ければ多いほどいいから、って。
円    かっこい〜っ。
俊太   俺も同じだよ!
      あ・・・俺も、誰にも言ってなかった、俺みたいなのが言っても、バカにされるだけだから。
      けど、教師になりたいな・・・って思ってる。
      やっぱりさ、あんな先生になっちゃ駄目だよな。もっと良い先生になる、
      子どもが楽しく学校に来れるようにさ。
円    あたしはね・・・ちょっと違うんだけど、いい?
哲也   なに?
円    あたしは・・・作家さん、かな。うん、なんでもい〜の。
      小説家でもジャーナリストでも、
      とにかく今の教育や社会が抱えてる色んな問題をもっとたくさんの人に知ってもらうの!
      もっとたくさんの人に考えてもらえばもっともっともっと良くなると思う! 
俊太   円ちゃんはすっごいことを可愛〜く言う。
哲也   やっぱりただ者じゃない。
      僕なんかよりずっとおっきなものを見据えてる。
円    思ってることは一緒。
俊太   いつの時代も思ってることは一緒、か〜
哲也   そうだね。
円    逆に言えば、
      悪いことも相変わらず続いてるってことだけど。
俊太   これから変えていけないのかな?
哲也   だけど20年経っても変わってないんだよね・・・?
円    思うんだけどさ、
      ここであたしたちが出逢ったことって、神さまにとっても予想外だったんじゃないかって。
俊太   予想外?
円    タイムスリップしたときって、どんな感じだった?
俊太   え・・・どうだっけ。
哲也   記憶が曖昧だけど確か・・・
      この辺で先生と言い争ってたら、突然雷が・・・
俊太   あ、そうそう、雷が鳴って停電して・・・、
      俺はここにいたんだっけ。で、なんか変な音がしたと思ったら突然テツたちが現れたんだ。
哲也   うん、いきなり俊太たちが現れた。
円    雷・・・?こっちはずっと晴れてたわよ。
俊太   だからかなぁ、急に教室の雰囲気も、
      自分の気分も明るくなったような気がする。
      先生と言い争ってた時の気分はどっかへ飛んでっちゃったみたいに。
哲也   そうだね。あの気分のままだったら、
      とても先生を殴ったりできなかった。
円    ・・・ひょっとしたら、タイムスリップした時点で
      もう既に良い方向に変わっていたのかもね。
俊太   そういえば、
      鈴村の性格が少し変わったような・・・。
哲也   権藤先生は・・・あんまり変わってないかな。
円    こういうことじゃないかしら?
      やっぱり予想外だったのよ!
俊太   なにが?
円    時間は過去から未来に流れる風の集まりなの。
      風の流れが変にならないようにちゃんと管理している神さまがいるんだけど、
      きっと神さま、居眠りでもしちゃったのね。
      ひねくれ者のしゅんちゃんみたいな風は自分勝手に逆むけに吹いたりして、
      あたしみたいな風は遅刻常習者だから、のんびりとその場で寝ちゃってるのね。
      てっちゃんは夢に向かってまっしぐら!勢い余って吹きすぎちゃった。
      だから3つの風がここで出逢った、って、こんなのはどう?
哲也   ロマンチックだね。
俊太   つまり、その神さまが目を覚ましたら、
      俺たちは元に戻れるわけだ。
円    う〜ん、でもね、やっぱり風さん達が出逢ったのには、何か理由がある気がするの。
      権ちゃんや鈴ちゃんが一緒に来てるっていうことが引っかかるのよね。
      これはあたしの勘なんだけど、あたし達みんな、いつかそんなに遠くない未来で、
      実際に繋がることがあるんじゃないかしら?
      だから、わざわざここで出逢って、
      何か都合の悪い未来を変えようとしてるんじゃない?
俊太   例えば、俺がテツの息子だったとか?
哲也   やめてよ変なこと。だいたい苗字が違うじゃない。
      確か谷川、だったよね。
俊太   ああ。そういえばお前は?
哲也   僕は鈴村哲也だから・・・
俊太   鈴村ぁ?
哲也   うん。あの先生と同じ苗字。
      あんまり言いたくなかったんだけど・・・
円    確かに、嫌な先生と同じ苗字って、なんかね〜
俊太   ・・・ちょっと待て。
      あいつも、鈴村哲也だぜ。
円    え〜?
哲也   うそ・・・
俊太   なぁ、「てつや」ってどんな字を書くんだよ?
哲也   哲学のてつに、
俊太   「なり」っていう字か?
哲也   ・・・うん。
俊太   全く一緒だよ。
      それに鈴村は確か、今年で35だ・・・
円    メガネもかけてるわね。
俊太   つまり、テツと鈴村は・・・
哲也   言わないで!
俊太   テツ・・・
哲也   やっぱり・・・嫌だよそんなの!嫌だ・・・
俊太   お前・・・
哲也   俊太!ごめん。僕があんなに酷いこと・・・
俊太   お前じゃねぇって!
      鈴村と、今のお前は違うだろ。
哲也   最初からなんとなくそんな気はしてた。
      なんか、不思議な感じがしたんだ。知らない人には思えなかった。
      僕!あんなふうになるんだったら、
      死んだ方がましだよ!
俊太   未来は変わるんだってさっき言ったろ。
円    悪い未来がわかっているなら、
      そうならないように努力すればいいのよ。
      そのためにあたし達が出逢ったのよ、きっと。
哲也   でも!
      ・・・先生たちは、昔思ってたことなんてもう覚えちゃいないって。
      それにあの人が僕を見て気が付かなかったってことは、
      自分の昔の顔も覚えてないんだよ!?
      やっぱり、大人になったらみんな忘れちゃうんだ。
      今どれだけあがいたって大人になったら結局、あんな風にしかなれないんだよ・・・。
俊太   大丈夫だって、お前はきっと良い先生になれる。
哲也   なれるもんか・・・
俊太   夢はどうするんだよ?
哲也   知らないよ。
      それに、これから先ずっと生きてても、
      俊太や、他の生徒が嫌がるような先生になるんなら、
      いっそ今のうちに死んじゃった方が・・・
俊太   何言ってんだ。
円    ・・・ばっかじゃないの?
俊太   円ちゃん?
哲也   ・・・・・・。
円    ねぇ、ばかてっちゃん!!(胸ぐら掴め)
      ちょっと言わせてもらうわよ。
      今のあんたを動かしてるのはだれ?
      あんたでしょ?
      明日のあんたを動かすのはだれ?
      あんた以外のだれかってことがある?
      なんでもかんでも成り行き任せに進んでくもんじゃない。
      あんたがそんなんだから鈴ちゃんみたいになっちゃうのよ!?
      ・・・自分でどうにかしようと思わないの?
      明日の自分、明後日の自分、みんな自分でしょ?
      朝起きたらいきなり大人になってるってわけじゃない。
      20年後って一口にいっても、時間は一日ずつ過ぎていくの。わかる?
哲也   わかった・・・、わかった、けど!!
 
 走り去る哲也。
 
俊太   待てよテツ!
円    待たなくてもいいの!
俊太   なんでだよ、もしあいつが自殺でも・・・
円    大丈夫よ。
      ・・・もし、てっちゃんが死んだら
      鈴ちゃんもいなかったことになるでしょ、
      鈴ちゃんもてっちゃんもいなかったら、俊ちゃんも権ちゃんもここに来ない。
      でも2人とも今ここにいるじゃない。そういうややこしいパラドックスが生まれるの。
      時間の神さまはパラドックスが大っ嫌いだから、
      てっちゃんが死んじゃうことは無いはずよ。
俊太   どういう意味?
      パラドックスってなんだよ。
円    親殺しのパラドックスって聞いたことない?
俊太   いや・・・
円    タイムマシンで過去に行って
      自分の親を殺したらどうなると思う?
      そうすると、自分は生まれなかったことになって、
      タイムマシンを使って過去に行ったってことも実際にはなかったことになるじゃない。
      そうすると父親は殺されなくなるから・・・おかしいでしょ?
      これがパラドックスよ。
俊太   ・・・なんとなくだけど、わかった。
      円ちゃん、君って・・・
円    っもちろん、SF小説の受け売りだけどね!
 
 権藤・鈴村、帰ってくる。
 
円    あ〜、権ちゃん鈴ちゃんおかえりなさ〜い!
権藤   教師をちゃん付けするな!
円    ご飯は〜?
鈴村   ・・・面目ない。
俊太   どうしたの?
権藤   鈴村先生が変なお札しか持っとらんかったんだ!
      (お札を見せる)
円    何コレ〜?
俊太   ゲ〜っ!これ2000円札じゃん。
円    むらさき、しきべ…?
権藤   こんな中途半端な札をつくるなんて、
      未来の人間は何を考えてるんだ!
鈴村   そーゆーことは小渕さんに言ってください!
円    ってことは、ご飯は・・・
権藤   無い!
円    そ〜んなぁ〜〜〜・・・(へなへな)
権藤   ところで、500円札が廃止になったらしいな。
      便利なのに・・・
俊太   先生たちもタイムスリップを認めるんですね。
権藤   認めざるを得んだろう。
鈴村   湾岸戦争がほとんど終わって、
      ロシアにエリツィン政権が出来た頃だな。
      本当にちょうど10年前に来てしまったらしい。
権藤   来年はバルセロナオリンピックだって?
      モスクワオリンピックのようなことにはならなければいいがな。
鈴村   ん・・・ところで、1人足りないようだが?
俊太   ・・・先生、自分が中学生だった頃の事って、覚えてる?
鈴村   そりゃあ・・・しかし、よくは覚えていないな。
権藤   そんなもん、忘れて当たり前ですよ!
俊太   嫌いな先生とか、いなかった?
鈴村   ああ、いたぞ。
      すぐに暴力をふるう先生でな。大人になったら、
      体罰だけは絶対にしない教師になると誓ったんだ。
円    それって、権ちゃんみたいな?
鈴村   そう、ちょうど権藤先生のような・・・
権藤   心外ですな!
鈴村   あっ、すいません・・・
俊太   テツの本名、鈴村哲也って言うんだ。
      先生と同じ字で。
鈴村   なに?
円    ちょうど20年前、1981年には、
      鈴ちゃんは15歳だったのよね。
権藤   どういうことだ?
俊太   テツって、子どもの頃の鈴村先生じゃないですか?
鈴村   ・・・・・・。
権藤   なんだそりゃあ?どういうことだ?
鈴村   ・・・確かに、初めからなんとなく、
      見たような顔だとは思ったんだ。
円    人間って、自分の顔も忘れちゃうもんなのかしら?
鈴村   ・・・・・・。
権藤   で、そのテツはどこにおるんだ?
俊太   ・・・将来の自分に悲観して、どっかいっちゃいました。
鈴村   なんだって?
権藤   悲観して・・・って、自殺でもしたらどうするんだ!
      おれの教え子だぞ、何故止めなかった!
俊太   鈴村先生がこの世にいるって事は、
      少なくともまだ死んでないよ。
      それに、パラドックスが・・・
鈴村   いや、それはわからんぞ。
      アインシュタインの相対性理論が破れてしまった今、科学的な理論で攻めても仕方がないしな。
      パラレルワールドというのを知っているか?
俊太   パラソルヘンべぇ?
円    ああっ!それがあったわね!
権藤   なんのことですか?
鈴村   多元宇宙ですよ。
      つまり個人の知覚できる宇宙は1つですが、実は他にも無数の宇宙があり、
      目には見えなくても並存しているし、絶えず分裂増殖もしてるんです。
俊太   さすがは理科教師。
鈴村   SF漫画の受け売りだよ。
権藤   体育大学出身なんでもう少しわかりやすく・・・
鈴村   テツが生きている世界と
      わたしが生きている世界が
      よく似た別の独立した世界だと考えるんです。
      つまりテツが死んでも、
      よく似た違う世界に住んでいるわたしには何の影響もないということですよ。
権藤   ・・・なるほど(?)
円    その可能性もないことはないのよね。まずいわ。
俊太   ・・・まじで!?
円    まじでっ!
俊円   まっじっで〜?
      YO,CHECK IT OUT!
俊太   じゃあ安心していられないじゃないか!
権藤   探しに行くんだ!
俊太   言われなくても・・・!いこ、円ちゃん。
円    うん!
 
 円・俊太たいじょー
 
権藤   ・・・驚きましたな。
      しかし、どうしてこんなことを知って、
      そんなに平然として居られるんです?
      今にも消えてしまうかもしれない・・・
鈴村   自分でもわかりません。しかし・・・
      何か不思議な感じがするんですよ。
      今の自分が今までの自分でないような・・・
      そしてこれから自分の中で何かが変わっていってしまうような・・・
      しかしそれが、不思議と嫌だとは感じないんですよ。
      忘れていた何かを思い出そうとしている、そんな感じです。
権藤   鈴村先生は35ですか。
鈴村   はい。
権藤   同い年ですな。
鈴村   そうですか。
権藤   わたしも不思議な感じです。
      自分の教え子の20年後の姿が、
      今、ここにこうして、目の前に立っているわけですから。
鈴村   本当ですよ。
      ・・・お久しぶりです、権藤先生。
権藤   ・・・久しぶりだな、テツ!
鈴村   なんだか本当に不思議な感じです。
権藤   おれもだ。
      そうか、テツは教師になるんだなぁ。
      俺みたいな嫌われ者になっていないだろうな。
鈴村   それが・・・お恥ずかしい。
      わたしは暴力を嫌う余り、何でも安全に解決しようとしているようです。
      心とは裏腹な事を言って、叱りつけて、
      自分でもよくわからないような屁理屈で生徒を縛り付けているんですよ。
      ・・・そういえば、どうしてわたしは俊太を叱っていたんだろう? 何が原因で・・・
権藤   もう、未来が変わっているのかもしれんな。
鈴村   え?
権藤   テツは、いや、鈴村先生は日頃から
      心のどこかで自分の教育方針に疑問を覚えていた。
      あなたの中には確かにあったんですよ、理想の、教育というものが。
      ただそれに気付いていなかっただけです。そして今、
      気が付こうとしているんじゃないですか?
鈴村   そうでしょうか。
権藤   そうですよ。わたしが、そうですから・・・。
      わたしも何かに、気が付こうとしているのかも知れません。
      それがなんだかわかりませんが、
      暗くとも、模索していくつもりですよ。
      こうした言い方は失礼かも知れませんが、
      テツの、未来のためにも。
鈴村   権藤先生・・・
権藤   中学3年生のテツは、
      今必死にたたかっとるんでしょう。
      自分と、そして、自分の未来と。
      つまり、あなたとです。あなたも全力で、それに答えてやってください。
      ・・・しっかりしろよ!テツ!!
鈴村   はい!・・・先生!!
権藤   (にっこり)
 
 ピシャゴローン
 はじめとだいたい同じ効果。
 権藤、鈴村消滅。
 ズッコケ三人組登場。
 
円    キャ〜!雷こわいの〜・・・!!
俊太   わ、わ、わ!大声出すなよ。
哲也   あれ、先生たちは?
円    いな〜い。
俊太   どこ行ったんだろ。
哲也   さぁ。
円    あ・・・もしかして、帰ったんじゃない!?
哲也   帰った?
円    それぞれの時代に!
俊太   あ〜〜!!・・・まさか今の雷!
哲也   僕らを置いて行っちゃったの?
円    あら〜もう帰れなかったりして〜
俊太   縁起でもない!
哲也   帰りたい・・・
俊太   そーだ、お前は帰って先生になるんだろ?
      生徒に愛される良い先生にさ!
哲也   もちろんだよ。絶対なってみせる!
      もうそう決めたんだ! 俊太もだろ?
俊太   ああ。
円    でも、帰っちゃったら、
      あたしたち二度と会えないのかな・・・
俊太   あ・・・。
哲也   ・・・・・・。
円    な〜んて冗談よ!会えるにきまってんじゃない!
      こ〜んな変な巡り合わせで出逢ったんだからさ、
      同じ時代に生きてりゃもう一回くらい会うに決まってるわよ〜?
俊太   そうだな!一回と言わず・・・
      親友になれるといいな!おれたち。
哲也   年は全然違うけどね。
円    関係ないわよ!
俊太   ホント、年が10も20も離れてるとは思えないよな〜
哲也   うん、本当に、恥ずかしい言葉だけど、
      「親友」って呼ばせてほしい。
円    もっちろんOKよ!
俊太   ・・・な〜、お前ら本当は俺を騙してねぇ?
      みんなでよってたかって嘘ついて「ドッキリドキドキ大成功」
      なんてやるんじゃないだろうな〜?
哲也   まだそんなこと言ってんの?
円    あのね!
      ・・・あたし、ある意味では、嘘ついてた、かな。
俊太   なんだよ、それ。
円    いやっ、やっぱ言わない!
哲也   ダメだよそんなの。
円    怒らない?
俊太   神さまに誓って!
哲也   僕も!
円    何の神さまに誓うの?
俊太   え・・・と、
哲也   僕らを巡り合わせてくれた、
      間抜けな時間の神さまに誓って!
俊太   お、いいなそれ。
円    あはははははは。(けたけた)
哲也   どうしたの?
俊太   いきなりなんだよ。
円    あたしがその、間抜けな時間の神さま!
      の、えっと、分身、っていうのかな。
俊太   はぁ?
哲也   どうゆうこと?
円    さっきも言ったけど、
      タイムスリップが起こっちゃったのは
      時間の神さま・・・あたしが居眠りしてたせいなの。ごめんね!
      ちょうど西暦でいって1981年と2001年が
      自分の時代に満足してなかったらしくて勝手に歴史を変えようとしたの。
      その時はあたしがすぐに起きてとり押さえたから歴史は大きく変わることはなかったんだけど
      それでも完全におさまったわけじゃなくて
      少しでもそれぞれの時代を良くするために2人ずつ人間を選んだのね。
俊太   それが俺たちってことか。
哲也   僕たち、選ばれた人間だったんだね。
円    うん。だから4人がちょうど中間の時代、
      1991年に時間移動しちゃったわけ。
      でも未来を変えるのはそんなに簡単じゃないのね、それであたし、
      自分の分身つくって助けに来たの。
      もともとあたしが居眠りしてたせいだしね。
哲也   じゃあ円ちゃんは、人間じゃないの?
円    それは誤解しないで!
      もちろんあたし、佐倉まどかは1991年に本当に生きてる女の子だし、
      作家になりたいって言った夢も本当!
      しゅんちゃんやてっちゃんと話したことはぜ〜んぶほんとう!嘘じゃないの。
      佐倉まどかって人間自体はちょっぴり歴史を操作して勝手につくっちゃったんだけど・・・
      この日のために15年間ちゃんと生きてきたのよ!
      だけどあたし、人間の生活が気に入っちゃったから
      もう死ぬまで人間でいるつもり!
      だからあたしは、
      元気一杯正真正銘天下無敵の女子中学生
      円ちゃん、です☆☆(ヘイポーズ!)
俊太   円ちゃんは円ちゃんだってことだね。
円    そうそう。
      騙しててごめんね!
哲也   騙すだなんて。
俊太   だから、聞かれなかったから言わなかった、だろ。
円    そーゆーことにしといて☆
哲也   びっくりしたなぁ・・・
俊太   どおりで凄いことたくさん知ってると思ったよ。
円    てっちゃん、怒鳴っちゃってごめんね。
哲也   あれは効いたよ。
      ああ言われなかったら、本当に死んじゃってたかも。
俊太   ばかなこというなよ。
円    あれ、あたしたちみんなばかじゃなかった?
俊太   あ〜、そうだった。
哲也   変なの・・・。
円    さ、じゃあそろそろ帰る?
俊太   名残惜しいな・・・
哲也   もう会えないのか・・・
円    会えるわよ。すぐに。
哲也   ・・・そうだね。
俊太   思いきって帰っちゃおう!
円    うんっ。
俊太   また、会えますよ〜に!
3人   会えますよ〜に!
 
 ピシャゴローン
 言わずもがな同じような効果。(雨の音はどちらでもよい)
 男が舞台上から消える。
 
円    行っちゃった・・・
      なんかあの4人、じゃなかった、3人かな。色々と考えさせられたわね〜
      このことを小説かなんかにしたらおもしろいかも!映画かTVドラマにするのもいいわね〜☆
      あ、そうだ!いっそ、演劇かなんかにしようかな〜。高校行ったら、演劇部入るのもいい!!
      今日だってみ〜んなだませちゃったんだから、大した演技力よね〜!
      「あんたたち、たいむとらべら〜?」
      だって、知ってるっつーの! あははは☆
      って・・・あたし、もう神さまのカの字も残ってないわね〜
      完全に人間社会に順応しちゃってるわ、こりゃ。
      まいっか!
      にゃはははっ。
 
 駆け去る円ちゃん。
 暗転。
 フェードで明転。
 
鈴村   ・・・俊太。
      俊太!
      コラ俊太!
俊太   は、はいぃ!
鈴村   人が大事な話をしている時に、居眠りとはなんだ!
俊太   でも先生、居眠りが僕らの未来を変えたんですよ。
鈴村   な〜にわけわからんことをいっとるか。
俊太   まぁまぁ、こうして帰って来られたわけだし・・・
鈴村   はぁ?お前熱でもあるのか?
俊太   あれ・・・もしかして、覚えてない?
鈴村   なにがだ?
俊太   あ・・・!(鈴村を睨み付けて)
      だから俺はやってねぇっていってるだろ〜〜!!!
鈴村   (ごつん)何を寝ぼけとるんだお前は。
      進路のことで相談があると言ったのはお前だろ?
俊太   え・・・あ〜、そうだったそうだった!
      すいません、夢みてまして・・・
鈴村   しょうがないなぁ、じゃあ最初からいくぞ。
      教師になるんなら、
      まずは地元の教育大学を目指してみるのはどうだ?
      高校で悩むこともないぞ。
      あそこならどこの高校からでも入れるからな。
      なんせ先生でも入れるくらいだ。
俊太   あ、先生バカなんだ。
鈴村   はっきり言うな!
      これでも理科の成績だけは、小学校の頃から1番だったんだ。
俊太   理科だけでしょ?
鈴村   うるさいな・・・
俊太   ねぇ、おれその大学行くよ。
      先生と同じ大学行って、先生みたいな先生になる。
鈴村   嬉しいこと言ってくれるなぁ。
      先生も昔同じことを言った。中学の頃、今の校長先生が先生の担任でな、
      すぐ殴るし、最初はやな先生だと思ったもんだが、
      ある日突然すごく良い先生に見えてきてな。それからは先生も、
      この先生みたいになるんだ、って思うようになったんだ・・・。
俊太   想い出話はもういいよ、聞き飽きた。
鈴村   あ〜、ごめんごめん。
俊太   想い出ならさ、奥さんの話してよ。
      10個も年下の嫁さんもらっちゃってさ〜。
鈴村   なんだ、それのどこが悪いってんだ。
俊太   悪いなんて言ってないって。
      SF作家のタマゴなんだろ?今度紹介してよ。
鈴村   あ〜、まあ、別にいいけど。
俊太   じゃあ明日、先生の家行くからね〜
鈴村   こらこら、先生にも予定ってもんが・・・
      ないけど。
俊太   いいじゃん、夏休みだし。
 
 幕が下がり始める。
 
鈴村   それはいいが・・・、
      夏休み明けには髪の毛元に戻して来いよ。
俊太   わかってるって。
鈴村   面接の時に少しでも茶色が残ってたら
      アウトだと思えよ。
俊太   はいはい。でさ、先生の奥さんって、
      可愛いの?
鈴村   ・・・そりゃあ、まぁ。
俊太   うわ〜、赤くなってら、先生もう35だろ?
鈴村   やかましい!
 
 やいのやいの。で、たぶんとっくの昔に緞帳降りてる。
 緞帳降りきったらすぐに撤去にかかりましょ〜。
 
                   完。



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