次の時間(火曜日)から「作文」やります(詳しくは別紙参照魚)。「学園の丘に載る」ということは「知らない人も読む」ということなので、「誰にでもわかるように書く」ことを心がけてください。また「学園の丘に載る」ということは「一生残ってしまう」ということでもあって、同窓会でネタにされたり、結婚式で読み上げられたり、逮捕された時にワイドショーで流されたり、親や兄弟にこっそり読まれてほくそ笑まれたりします。だから「後悔するような書き方をしない」ことが肝要です。それは決して「恥ずかしいから本音は書かない」ということではなく、「誇りを持って本音を書く」ということです。誇りを持って書かれた文章は、後から読んでも「少し気恥ずかしいけど、愛せる文章」になります。というわけでネタ考えといてね。木曜日までの三回で下書き終わらせます。目標は「他のクラスはつまらんが、欅はどこから読んでも面白い!」です。 「誰にでもわかるように書く」―作文の心得 専門用語(「大グラ」とかもね)は使うな! 「世間の人なら誰でも知ってる(であろう)有名な人」以外は、個人名を出すな! 「○○ちゃんが〜」とかいきなり言われても、知らん! 自分の知らない人の話題で周囲が盛り上がってたら疎外感を味わうではないか! 初対面の人から「ほら、私ってコーヒーが好きじゃないですかぁ〜」とか言われたらむかつくじゃないか! しらねえよそんなこと! きい。 主語と述語、修飾語と被修飾語等、語と語の関係がわかるようにちゃんと書け! 「文体を崩す」ということができるのは、「ちゃんとした文章が書ける」ということを前提としてしかありえない。ピカソが本当はすっげーデッサンとかうまかったのと一緒。中学生のうちは、《正しい》「てにをは」を意識して書くべし。品詞で言うと「助詞」だよ。「助動詞」も大切なんだけど、それはできる人だけでいい。 もちろん「正しいからそうするべき」なわけではない。「正しいとされているような書き方をすれば、誰にでもわかるように伝わる」というだけのことだ。「正しい日本語を使え!」なんていう言葉に反感を持ってしまうような人は覚えておいたほうがいい。「《正しい》とされる日本語を使わなければいけないわけではないが、誰にでも伝わるような文章は《正しい》日本語でなければ作りにくい」というだけのこと。 「どえりゃーとーれーもんでかんわー」というのは「非常に遅いものでいけません」という意味だが、「どえりゃーとーれーもんでかんわー」は、誰にでもわかるような言葉ではない。もちろん、それが通じる文化圏(たとえば愛知県)では、むしろこっちを使ったほうがいい(「民族と文化」参照)のだが、「誰にでも伝わるような文章」ということを考えると、「非常に遅いものでいけません」のほうが適当らね。 これは、君たちがふだん使っている「中学生語」も同じだ。「中学生語」が誰にでも通じると思ったら大間違いだぜ? 特に文章になると、途端にわけわかんなくなる。友達同士で話すような感覚でテストの答案や作文用紙を埋めているやつがけっこーいんだが、なめんな。僕は「なんとか」解読できるが、ふだん中学生との交流のないお年寄りとかに読ませてみ? 絶対理解できないから。意味ぷー。 なんで君たちの作文が意味不明なのかというとだね、「誰もが知っている共通のルール」にのっとっていないからだよ。「共通のルール」ってなに? 「文法」のことだよ。そして広い意味での「文法」には、「句読点のつけ方」や「単語の使い方」なんかも含まれてて、「正しい文法」で書かれた「正しい文章」を作ることが、君たち中学生に求められている「誰にでもわかるように書く」という能力なんだ。 むろんね、《正しい》を破壊して、「自分なりの言葉」を作ったっていい。僕はさっきからずうーっとそれをやっている。(…例えば、「けっこーいんだが」とか「ずうーっと」というのは《正しい》日本語の書き言葉ではない。)だけどそれは、「今ここで」やるべきことじゃない。ここは中学校で、君たちは中学生だから。 今ここで君たちがやらなければいけないことは、「誰にでもわかるような」、《正しい》書き言葉で文章を作ることなんだ。そうでなければ、「こいつは作文ができない」と言われてしまう。どんなに魅力のある文章だろうが、悲しいかなそう言われる。少なくとも、今僕が書いているような「崩れているようには見えるけれど、意味はちゃんとわかる」文章を作らなければだめ。でも、先に《正しい》を会得してからでなければ、「崩す」という行為なんか、できっこない。ありもしないお城を壊すことはできませんね? つきあってもない相手と別れることもできませんね? 生まれなければ、死ねませんね? そゆこと。 具体例。某君の一学期の作文より。 「今回の修学旅行で、色々な所に行った。監獄や流氷館、カヌー、サーモンパークなど、四日間であんなに色々な所に行くのはめったにないと思う。」 ここで、某君は一つだけ「ルール違反」を侵している。文章のルールというのは「文法」のことで、「文法」というのは、「文の中での、語と語との関係を決める法則」と言えるようなものなのだが、この作文はそれを侵している。さあ、どこか? わかるね。 某君は、「色々な所に行った」と言っておいて、その具体例の一つとして「カヌー」を挙げている。カヌーは「所」ではない。「所」と「監獄」は対応するが、「所」と「カヌー」は対応しない。 それが「文の中での、語と語との関係を決める法則」=「文法」を侵している、っていうことだ。 こういう、一見問題のなさそうに見える文にさえ、「ルール違反」がいっぱいあるっていうのが君たちの「今の」文章力だ。それは自覚しておいたほうがいい。どんなに作文の上手な子でも、一つか二つは間違いをしでかすものだから。 ということで次は、文章の上手な某嬢の作文から。 「私は御伽噺に明るい。星座の話も沢山知っているが、どの星が何なのやら見当も付かなかった。物凄い量の星に驚嘆しつつもそれが少し残念だ。」 …どこが問題かわかるかい? わかったら相当の日本語力がある。 問題は「量」という言葉だ。ふつう、星は「数」で表すものであって、「量」ではない。重箱の隅をつつくようだが、「文の中での、語と語との関係を決める法則」=「文法」によると、「通常、量という言葉は《数えられない名詞》に対して使われる」と決められているのだ。 彼女としては、もしかしたら、比喩的に「数え切れないほど多くの星々を一つの総体としてとらえ、その圧倒的な存在感を《量》という言葉で表した」ということなのかもしれない。しかし、中学校の授業でそういう文学的な表現を使うと、「ああ、こいつは作文ができないな」と思われて、終わり。幸い僕は文学に堪能なので、そういう(作者にとって都合の良い)深読みができるが、ふつうは単純に「バツ」。終了。 (ちなみに、本とかビー玉とか、固まって「一つの総体」のようになっているものに対しては、数えられる名詞でも「量」と言うことはあります。星の場合は、ばらばらに空に浮かんでいるので、「量」というのはちょっぴりおかしい。) 中学校という「場所」はそういうところで、みんなの個性(嫌いな言葉だが)をはぎ取って、のっぺらぼうみたいに同じような人間ばかりを量産しようとする。でもそれは、「無個性な人間」を作り出そうとしているのではなくて、「どんな個性でも載っけられる、基礎(土台)のしっかりした人間」を育てようとしているんだ。「個性を育ませるために個性をはぎ取る」という無茶苦茶なことをしているのが中学校で、それゆえみんなは混乱する。「自由がない!」なんてね。バカ言ってんじゃないよ。ルールのないところに自由が存在してたまるか。 「いちおう」国語の先生である僕は、「文法」のわりと多くのこと(全部ではない)を知っている。だから、それを「崩す」ということができる。「崩れてても意味がわかる文」を作れるのは、「ここは崩しても大丈夫だけど、ここを崩すとちょっとまずい」ということがわかっているからだ。文法というルールを自分のものにしているからこそ、それを崩すという「反逆」が可能になる。初めからルールを拒否しているやつに、「反逆」も「反抗」もできない。どんなに粋がったところで、「わがまま」や「甘え」以上のもんにはならん。かっこ悪いねえ? ……話が生活指導のほうに行きそうだ。性分じゃない。やめる。 「誰にでもわかるように書く」という言葉の意味が、わかった? わかんなかったら、この文章を何度でも読み返してくれるといいよ。今わかんなかったら、一年後に読めばいい。それでもわかんなかったら、二年後、五年後、さすがに十年後にはわかっててほしいけど、いつでもいい。 もう一度易しく言うよ。「誰にでもわかるように書く」というのは、単純に「みんなが知らないことをいきなり書かない」ということでもあるんだけど、もう一つ大切なことは、「誰でも知っている『文法』という共通のルールを守って書く」ということだ。それができるようになったら、「共通のルール」を崩してもいい。ただし、慎重にね。 作文を書きながら、「この文は誰にでもわかるように書けているのか?」ということを常に自問自答するようにしてほしい。それだけでかなり違うはずだ。すぐに上手くはならないけど、必ず上達する。 もし君が「文章が書けるようになりたい」と思うのなら、とにかく書け。ノート(ブログでもいいぜ)に日記をつけるのもいい。それから、《正しい》文章をたくさん読むこと。なんだよ読書かよー、って思わないでね。「本を読むのがだいじ」っていうのは、実に《普遍的な》事実なんだから。あ、でも××××小説や××××は《正しくない》文章の宝庫なんで、気をつけてね。××××××も玉石混淆だから注意。玉石混淆がわからん? 調べろ! (後略。「要領よくやれ!」参照。) トップページ |