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文章の書き方 基本編


●「良い文章」とは何か?

……良い文章とは、
 @自分にしか書けないことを
 A誰が読んでもわかるように書く
という二つの条件を満たしたもののことだ。
(『高校生のための文章読本』筑摩書房)


【まとめ】

《@自分にしか書けないことを》
 自分だけの「価値観・世界観」を育てるべし。そのために、
「他人が考えない・書かないだろうこと」を常に意識しよう。

《A誰が読んでもわかるように書く》
 A ことばに関する約束事を守る
 B 情報を並べる順番に気をつける

《B音楽的効果・視覚的効果を意識する》
 書いた文章を声に出して読んでみよう(心の中で唱えてもいい)。耳で聞いて心地よいか、意味が取りやすいか、つっかえないか、などを点検すること。また、目で見た時の見やすさ、わかりやすさなども重視するといい。



《@自分にしか書けないことを》
 小論文だけでなく、まとまった文章を書くには、「自分なりの価値観・世界観」が必要だ。普段から何を思い、感じ、考えているか。それをもとにどう判断し、行動しているか。それが「価値観・世界観」の源となる。日常の中で、よくものを見て、触れ、人と話し、他人の書いた文章を読んだりする中で、作り上げていってほしい。
 具体的には、「できるだけ他人が考えていないであろうことを考える」「できるだけ他人が書かないであろうことを書く」といったことを心がけるとよい。他人と自分とを区別することが、自分だけの価値観・世界観を育てることに繋がる。
 あるいは、「こんな経験は自分しかしたことがないだろう」「こんな考え方は自分しかしないのではないか」と思った時に、意識してそれを覚えておくこと。その蓄積が、いつか「自分」を作ってくれるだろう。「他人と違う」と思ったら、それは喜んだほうがいい。「自分」は、その奥に潜んでいるのだ。


《A誰が読んでもわかるように書く》
 これには、二つの能力を鍛えるといい。

 A ことばに関する約束事を守る
 B 情報を並べる順番に気をつける

 Aは、いわゆる「文法・語法」のことであるが、あまり難しく考えず、「みんなが守っている約束事」と捉えよう。

・彼のことに、好きだ。

 約束事を守らないと、こういう文ができてしまう。この文は、いわゆる「非文」というもので、文として成り立っていない。すぐにわかると思うが、「に」ということばの使い方が間違っているのである。正しくは、

・彼のことが、好きだ。

 とでもするべきであろう。この程度のレベルであれば間違える者はいないだろうが、もうちょっと複雑な間違い方をする人は、とても多い。例えば……

 例えば、小さな子どもがいる家庭で毎日同じ時間にEテレを見ていたが、一本化にともなって今まで子ども向け番組をEテレで放送していた時間に総合で放送していたニュース番組を放送することによって、その視聴者のニーズに合わなくなってしまいます。

 これは以前書いてもらった文章の中に実際にあったものだ。この一文の意味が、即座にわかる人はいるだろうか。おそらく、いないと思う。なぜかといえば、約束事を破っているからだ。どう破っているのか? どう直したらいいのか? ぜひ自分でも考えてみてほしい。

 この文は、

 ・一文が長い
 ・一度にたくさんのことを言おうとしていて、ごちゃごち  ゃになっている
 ・主語と述語が定まっていない
 
 大まかにこのような問題があって、読みにくくなっていると思われる。
 その解決策として、以下のことに気をつけよう。

 ・一文を、複数の文に切り分ける
 ・一文一文をすっきり、簡潔に書く
 ・それぞれの文で主語と述語をはっきりさせる

 すると、
 
 例えば、ここに小さな子どものいる家庭があり、毎日同じ時間に「Eテレ」の子ども向け番組を見ていたとしよう。
 一本化にともなって、もしもその時間の番組が「総合」で放送されていたニュース番組にされてしまえば、この家庭のニーズに応えられなくなってしまうのだ。

 一文の長さは六〇字前後が良いとされる。(貝田桃子『いちばん楽しい!小論文』Gakken)文豪でもない我々は、長くてもそのくらいに抑えて、短い文をたくさん連ねるように心がけよう。


 Bの「情報を並べる順番に気をつける」については、文章の構成に大きく関わってくる。
 書いてもらった「NHKのチャンネル一本化への賛否」についての文章なら、

 ・賛否を明らかにする→その理由を述べる
  →現実的な問題点を提示する→その解決策を示す

 といったふうに情報を並べていくと、わかりやすかったと思う。だいたいみんな、ほぼこの通りに書いていた。
 これは大まかな流れを考える際にも大切なことだし、一文一文の順番や、単語やフレーズを並べる順番についても、同じように気をつけたほうがいい。
 英語で順番といえばorderというが、これには「秩序」という意味もある。秩序があるというのは、順番・順序がはっきりしているということなのだ。したがって秩序のある文や文章というのは、順番のしっかりした文や文章のことである。

明日早朝から温泉に行くので今夜は早く寝よう。
今夜は早朝から温泉に明日行くので早く寝よう。

 どちらがわかりやすいか、というのは一目瞭然だろう。



【補足コラム】
 日本語を使う私たちは、みな「日本語の約束事」を守って暮らしている。
 例えば、「これはペンだ。」という文がある。「…は〜だ。」という書き方は、「…」と「〜」がイコールで結べる、ということを意味する。「これはペンだ。」という言葉が「これ=ペン」という意味を正確に伝えるのは、「…は〜だ」が「…=〜」を示す、という約束事を、話し手と聞き手が共有しているからである。
 日常会話では、それはある程度崩れていても構わない。外国人と外国語で話す時、思いつくままに単語を並べ立てるだけで、ある程度話が通じてしまうのと同じである。
 ところが文章になると、約束事は厳格に守られなければならなくなる。表情や身振り手振り、その場の状況など、言葉以外のヒントが存在しないので、正確に言葉を使わなければ、言いたいことは伝わらない。
 入試の小論文や作文では、その能力が問われる。言葉の約束事が守れるということは、誰にでもわかるように言葉が使えるということ。それはつまり、常識があるということだ。あるいは、気配りができるということだし、「人に何かを伝える」という能力があるということだ。
 ちなみに、入試では文章の「要約」を求められることも多い。これは「文章を正確に読み取る」という能力が求められているのだが、これはつまり、「人の話をちゃんと聞ける」という能力とつながっている。だから、重視されるのだ。


《Bがあるとしたら……》
 かの文豪、谷崎潤一郎は名著『文章読本』の中で、文章の「音楽的効果」と「視覚的効果」について語っている。文章というのは、耳で聞いて心地よく、目で見て綺麗でなければいけない。文章は「美しく」あるべき、ということだ。
 余裕がある人は、ぜひこれを意識してみてほしい。
 文章を書いたら、声に出して読んでみよう。「書いた本人」という立場から離れて、「初めてその文章に接する人」になりきって読むこと。つっかえたり、よく意味がわからなかったり、聴き心地が悪かったりしたら、それは「よい文章」ではない。そのように自分の文章を客観的に眺めことができれば、文章力はめきめきと上がっていく。声に出すのは本当にオススメである。声に出すことによって、自分の文章は耳で聞く「対象」となり、「客観化」がしやすくなる。もちろん、実際に声に出すことは難しいことも多いだろうから、「心の中で唱える」だけでも充分だ。これは絶対に、やってほしい。
 目で読み返す時は、「見た目」を気にしてほしい。字の上手い下手ということではない。どういう言葉を選ぶか、どう並べるか、漢字にすべきかひらがなにすべきか、などなど、文章には「美意識」の関わる部分がたくさんある。同じ意味を伝えるのでも、美意識がしっかりしているかどうかで、印象はまったく変わってくる。
 美しい文章が書けるようになって、悪いことなどない。

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